3 システムトラブル
インターネット取引においては,システムトラブルも多発している。相場が乱高下する場面で,取引画面がフリーズしてしまったり,注文が出せなくなったり,といった事象が多く発生しているようである。
当事務所が取扱ったシステムトラブル事案としては,外国為替証拠金取引(FX取引)において,ロスカットの発動がなされなかったというものがある。高いレバレッジをかけて,海外の株式市場の動向等により我が国における取引レートが急激に変動することが当然に予想される外国為替証拠金取引において,未曾有とでも言うべき相場混乱が生じたわけでもないのに瞬時の約定ができないというのでは,正常な金融商品であると評価することは難しい。
「安全性」をうたい文句にしてきた取引所取引においてもシステムトラブルは少なくない頻度で生じているようである。相対取引業者においてはこの種のシステムトラブルは後を絶たない。
システムの正常さ・公正さが外部から見えにくいこともあって,スプレッドが恣意的に拡大されたり,スリッページが相当と考えられる範囲を超える頻度・範囲で生じたり,俗に「ロスカット狩り」と呼ばれるような手法が用いられているのではないかとの疑念が生じるような状況ですらしばしば見られる。
4 日経225オプション取引と巨額差損金問題
(1)事件の概要
平成23年3月11日の東日本大震災を契機に,日経平均株価が暴落し,日経225オプション取引においても,ボラティリティが増大するなどしてプレミアムが暴騰し,追証を払えずに強制決済される者が続出するなど,主にプットオプションの売り手が巨額の損失を蒙った。
(2)問題点
日経225オプション取引は専門性が高く,インターネットを利用して自ら取引を行っていた者が大多数である。しかし,中には証券会社の外務員等から勧誘され,不十分な説明しか受けずに,オプション取引を仕組みやリスクを理解できないまま,取引を行っていた者も存在する。これらの投資家については,通常の証券事件と同様に適合性原則違反や,説明義務違反といった違法性が存在する可能性もある。
また,日経225オプション取引においてもロスカットシステムを導入している証券会社が存在するが,オプション取引では権利行使価格及び限月が複数存在することや,立会時間が長く取引が減少する時間帯が存在するなど,流動性が低い状態が生じやすく,流動性が低い状態でロスカット注文(成行き)が執行されれば,これを狙った者が指値注文を対当させることにより,異常値であっても注文が約定してしまう。
上記日経225オプション取引においては,「損失を限定させる」という目的でロスカット口座を運用すること自体が非常に危険であって,システムとして欠陥を有するとも評価できるし,少なくとも顧客にロスカット口座を利用させるには,その危険性について相当高度の説明義務が課されるというべきである。 |
| column |
予測を超える損失の拡大−ルールは一方的に破られる−
都内在住の夫婦は,インターネットで外国為替証拠金取引取引を行い,高いレバレッジ(倍率)がかかった取引であったため,600万円弱の原資を半年で8000万円を超えるまでに殖やすことに成功していた。為替変動によって証拠金が一定程度以上失われると自動的に全取引が決済されるというロスカット・ルールと呼ばれる仕組みが採用されている取引であったことから,取引を拡大していって値動きが思惑とは逆に行ったとしても,一定程度の金額が確保されることになるという安心感があった。
平成19年7月27日午前2時28分,第何派かのサブプライムローン問題に端を発する為替相場の急変の影響で,8000万円が一瞬にして消えた。為替相場の変動の影響で差損益が生じるのは仕方がない。ただ,ロスカット・ルールが適用されていれば少なくとも900万円程度は確保されることになるはずだった。ところが業者は,相場の混乱でロスカット・ルールに従った取引ができなかったといい,900万円が確保されていないどころか,さらに1000万円を支払ってもらわなければならない,といってきた。約款には業者がロスカットを「する」と記載されてはおらず,ロスカットを「することができる」と書いてあるなどというのである。
しかし,ロスカット・ルールは,業者にとっては証拠金以上の差損金の取りはぐれを予防する方策だろうが,顧客にとっては損失を限定する防波堤として機能する。ロスカットをするしないを業者が勝手にするというような主張を認めるわけにはいかない。主婦は訴訟を提起し,東京地裁はその主張を認めて業者に賠償を命じた。結果は満足するべきものであったが,当然の賠償を得るためには,相当の労力を要した。
約款は,業者が一方的に定めるものであり,投資家の側が変更を求めることができるものではない。投資家は業者が定めたルールに従わざるを得ないのである。しかし,業者の側はそのルールを一方的に破ったり,勝手な解釈をしたりすることもある。そのような約款解釈や実際の取扱の予測困難性,不安定さは,見えにくいが大きな投資のリスクでもある。業者がルールを破ったときに司法が正しく機能するかどうかも予測は困難である。これもまた,専門家であっても予測することができない,大きなリスクである。
|
|