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金融商品取引トラブルの中には、広義の金融取引に関する相談も多いが、中でも圧倒的に多くを占めるのが、商品先物取引をはじめとする、先物オプション取引、外国為替証拠金取引などの、投機的取引に関するものである。
これら取引に関しては、組織的・確信的に違法行為が行われることも少なくないが、反面、クーリングオフなどの「直接的かつ容易な被害回復手段」はない。(海外先物取引について限定的な「クーリングオフ」類似の制度があるのみである。)金融商品販売法は、商品先物取引には適用されないし、損害賠償責任を明定するなどしているとはいえ、実務上活用されてはいない。消費者契約法は、広く消費者契約全般に適用されるものであるから、当然先物取引等にも適用されるが、適用される場合が限定されており、この種取引被害事案においては、未だ多用されてはいない。改正商品取引所法所定の損害賠償義務も限定されたものであり、その余の商品取引所法その他の業法やその下位規範、自主規制規則等も、直ちに被害回復のための根拠となるわけではない。
詳細な法令の知識よりも、「これはおかしい」という直感に素直に従い、事案と向き合うことが望まれる分野である。 |
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先物取引等被害に関する裁判事例等を概観すると、(詐欺的)先物取引業者の商法は、まず、業者側からの無差別の電話勧誘に始まり(適格性を判断しない勧誘)、最初は断っていても再三の電話によって根負けさせて面談をさせ、先物取引の投機性、危険性、複雑性についての十分な説明をしないまま、「同時多発テロによって世界が不安定になり、世界中で戦争が起こっている、原油の値段は、今は信じられないくらいに低いが、これ以上下がることは考えられない。今買えば儲かることは間違いない」等として、その旨誤信した者に対してなすべき説明を尽くさずに取引を開始させ(断定的判断の提供、相場観の押し付け、説明義務違反)、「まだまだ行けます、絶対に上がります、今買わなければ損です、あと300万何とかなりませんか」等と執拗に取引の拡大を要求し(新規委託者保護育成義務違反、過当取引)、仮に計算上利益が出ても手仕舞いをして取引を終了させる指示に応じず、益金を証拠金に振り替えて建玉し(利乗せ満玉)、さらに、損計算になると、「今止めればこれまでつぎ込んだ財産が無くなり、さらに巨額の損害が発生する、止めるわけには行かない」等として追証の要求や無意味な両建を執拗に勧誘し、追証や両建にかかる委託証拠金として新たな金員を拠出させ、顧客に先物取引をするに足りる知識経験、相場判断の資料、時間的余裕が無い(先物取引の不適格者である)ことに乗じて、無断ないし一任あるいは実質的な一任売買によって、両建、直し、途転、日計り、不抜けといった、いわゆる、特定売買といわれる手数料稼ぎの手法を駆使して無意味かつ過当な取引を繰り返し、顧客がその預託能力を超えて拠出した預託金員のほとんど全てを損金ないし手数料として失わせ、手数料相当額の利益を騙取するとともに、顧客の建玉に対応する向い玉を建て、あるいは顧客の総体との間に向い玉を建てる(差玉向い)ことによって、損金相当分をも業者の利益に転じさせてこれを偏取する、という商法であるということができ、ほとんど全ての事例で、上記複数の違法行為が競合してなされている。 |
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 商品取引員等の行為が、その誠実公正義務、注意義務に反し、不法行為(ないし債務不履行責任)を構成させるかについては、一般の顧客が商品取引員に委託して商品先物取引を行う過程は、類型的に勧誘に始まり、商品先物取引委託契約の締結、同契約に基づく具体的な建玉、そして終局的な取引の手仕舞いという一連の形をとり、一般の委託者を保護するためには、右の一連の過程のすべてについて適切な規制がなされることが必要不可欠であることから、このような一連の過程を全体的に考察してこれを判断すべきである。
このような、いわゆる、「一体的不法行為構成」と呼ばれる判断手法は、裁判例において、この種紛争における商品取引員等の不法行為の有無を判断する一般的手法として用いられており、最判平成7年7月4日NBL590号60頁も、「(商品取引員等の)一連の行為を不法行為に当たるもの」とした原審の判断を正当としている。 |
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1 適合性原則違反
商品先物取引等投機的取引は、これを行う一般消費者等にとっては、商品等(の購入)自体に意味があるのではなく、金融商品としての性質に注目して行われるものである。そして、広く金融商品に関与する者は、その商品に見合った財産、知識、情報収集能力、これらを的確に分析して自己の行動を判断する能力、十分な分析をなしうる時間、経験等が必要である。そのような知識、経験、情報収集、分析能力、財産が十分でない者は、当該金融商品を購入して「リスク」を負う適格性がない。このことは、一般消費者を含む一般投資家に限られることではないが、リスクに関わることに慣れていない一般投資家は、そもそも、自らが当該金融商品と関わりを持つに十分な知識、情報収集・分析、判断能力、リスクに見合った財産等を有しているのかさえ、自ら判断する知識、情報、判断能力、経験等を欠いていることが極めて多いことから、格別の配慮を要することになる。
ここから、当該金融商品について、豊富な知識、情報、経験を有し、一般投資家に対して当該金融商品の「購入」を勧誘する者は、被勧誘者が、勧誘しようとしている金融商品の性質に照らして十分な知識、情報収集・分析、判断能力、経験、財産を有しているかを調査し(顧客熟知義務)、これが十分でない場合には、勧誘自体をしてはならないという、「適合性原則」(適格性原則)が導かれる。
適合性原則の遵守は、証券取引においても、商品取引においても、勧誘する者が被勧誘者に対して負うべき、基本的な注意義務の一つとされている(なお、平成17年5月施行の商品取引所法改正法、同年7月施行の金融先物取引所法においては、適合性原則が法律事項となっている。)。証券取引法改正法(金融商品取引法)は、「・・・顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資家の保護に欠けること」とならないように業務を行わなければならないとして適合性原則を法律上明示した(法40条1号)。
裁判例も、最判平成17年7月14日が、「証券会社の担当者が、顧客の意向と実情に反して、明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど、適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは、当該行為は不法行為法上も違法となると解するのが相当である。」として適合性原則違反が民事上の違法行為を構成することを明言しているほか、「商品取引員は、一般消費者に対し商品先物取引の委託を勧誘し、あるいは一般消費者から商品先物取引を受託しようとするときは、その者が・・・商品先物取引不適格者に該当しないかについて必要な調査を行い、客観的、類型的にみてその者が商品先物取引不適格者に該当すると認められるときは、商品先物取引の委託の勧誘及び受託を行わないようにすべき信義則上の義務を負うものと解するのが相当であり、商品取引員及びその使用人において、右義務に違反し、必要な調査を怠り、客観的、類型的にみて商品先物取引不適格者に該当すると認められる者に対し取引の委託を勧誘し、あるいは取引を受託することは不法行為を構成するものというべきである」(東京高判平成9年12月10日先物取引裁判例集23号23頁)等としている。
2 断定的判断の提供
断定的判断の提供とは、投機的取引の勧誘を行う者が、被勧誘者ないし顧客に対して、利益を生ずること、あるいは、損失を取り戻せることが確実であると誤解されるような断定的な判断を提供して、受託を受けることをいう。これが違法であることは当然であるが、金融取引被害における「断定的判断の提供」という概念は、3つの異なったレベルの規範であると見ることができるものであることに注意を要する。
なお、(狭義の)断定的判断の提供があった場合には、消費者契約法4条1項2号により、契約締結申込の意思表示を無条件に撤回できるものとされている。また、改正金融商品販売法は、断定的判断の提供を禁じ、損害賠償責任を法定したうえ、損害額の推定規定をおいた(改正金融商品販売法4条)。
3 説明義務違反
投機的取引の勧誘者は、取引の勧誘にあたって、取引の仕組み、危険性等について、被勧誘者の理解力に応じた説明を尽くす義務がある。個別取引の勧誘を行う場合には、当該取引に係る商品についても、その価格変動要因等を具体的かつ正確に説明しなければならない(合理的根拠の法理)。
投機的取引の危険性、理解困難性その他の特性に照らし、勧誘者は、被勧誘者に対して、上記説明事項について、被勧誘者の理解力等に応じて、被勧誘者が理解できるまで十分説明を尽くす義務があるというべきである。このことは、説明が、顧客の理解のためになされるものであり、当該顧客の理解を得られてこそ意味があるものであることからして、当然である。諸規定において、「告知」すべきものとされているのではなく、「説明」すべきものとされているのはこの趣旨と解される。
改正金融商品販売法3条は、「当初元本を上回る損失が生ずるおそれ」(3TACE、W)、「取引の仕組みのうちの重要な部分」(3T@−E各ハ、X)の説明義務を法定し、「前項の説明は、顧客の知識、経験、財産の状況及び当該金融商品の販売に係る契約を締結する目的に照らして、当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度によるものでなければならない。」(3U)と規定している。
裁判例は、「商品取引員及びその使用人は、一般の消費者に対して商品先物取引の委託を勧誘するに当たっては、取引の仕組みやその危険性、取引の委託の方法、手順、追証拠金を含めた委託証拠金の内容、取引の決済の方法等について、その者が的確に理解することができるように、そのものの職業、年齢、商品先物取引ないし信用取引に関する知識、経験等に基因する理解力に対応した十分な説明を行い、その者が商品先物取引の仕組みやその危険性等に関する的確な理解を形成した上で、その自主的な判断に基づいて商品先物取引に参入し、取引を委託するか否かを決することができるように配慮すべき信義則上の義務を負うものというべきであり、商品取引員及びその使用人において、右義務に反する商品先物取引の委託の勧誘を行うことは不法行為を構成するものというべきである。」(東京高判平成9年12月10日)などとして、被勧誘者の理解力等に応じた説明義務の存在を肯定している。
4 新規委託者保護義務違反(取引の数量的過当性)
投機勧誘者は、被勧誘者に対し、真に自己の相場判断に基づく注文をなしうるような知識、経験を蓄積させ、保護、育成し、十分な自主的判断がなしうるまでに不測の損害を被らせないように建玉を抑制する義務を負う。現在では、新規委託者の保護育成に関する具体的内容は、受託契約に関する規則8条、ガイドライン5によって作成が義務付けられる、各社の受託業務管理規則(社内規則)に委ねられているが、従前は、業界内の自主規制として制定されたモデル規則である、全国商品取引所連合会における受託業務の改善に関する協定書等に基づく「新規委託者保護管理規則」により、原則として、3か月間、1時点の建玉枚数が20枚を超える建玉をさせてはならないものとされていたところ、同規則が、商品取引員等の行為の適正さを測る指針として規定されたものであり、商品取引員等の行為の社会的相当性の有無を判断する重要な規準となるものであるが、現在においてもこの基準は妥当性を失ってはいないから、商品取引員らの新規委託者保護育成義務違反の一応の目安となり、合理的な理由なくこれを超える建玉を勧誘したときには、上記新規委託者保護育成義務に違反するものとして、不法行為を構成させる一根拠事実となる。
裁判例は、「商品先物取引業界において新規委託者を保護育成すべく各種規定(新規委託者保護育成規定)が設けられているのは、商品先物取引が極めて高い投機性を有し、知識及び経験に乏しく、資金的にも余裕がない一般投資家が参入することには大きなリスクが伴うため、新規委託者が取引経験を積むまでの数ヶ月を習熟期間とし、受託者において、当該新規委託者が自覚的な意思に基づいた取引ができるようにしたものである。すなわち、受託者において、当該新規委託者の資質、能力、知識及び経験に応じた適切な情報等を提供した上、その余裕資金の範囲内で不測の損害を被ることのないよう保護しつつ、取引の危険性等を経験的に認識する機会を与えて、取引に習熟させようとしているのである。そして、新規委託者に対するこのような配慮なくして、商品先物取引市場の健全な発展はあり得ないといっても過言ではない。そうすると、受託者は、習熟期間中、新規委託者に対し、無理のない金額の範囲内での取引を勧め、限度を超えた取引をすることのないよう助言すべきものである。そして、短期間に相応の建玉枚数の範囲を超えた頻繁な取引を勧誘したり、また、損失を回復すべく、さらに過大な取引を継続して損失を重ね、次第に深みにはまっていくような事態が生じるような取引を勧誘することがあってはならないのである。このような新規委託者保護育成義務が措定されている趣旨からすると、商品取引員の社内規則等にその旨の規定が存在するか否かに関わらず、商品取引員には上記のような新規委託者保護育成義務が一般的な注意義務として求められているものと解される。したがって、商品先物取引において、これを仲介した商品取引員の担当従業員が、新規委託者保護育成義務に違反して、新規委託者に損失を被らせたときは、特段の事情がない限り、当該新規委託者に対する不法行為を構成するというべきである。」と判示し、取引開始から3か月の間に合計125枚の建玉をした取引に違法性を認めている(東京高判平成14年12月19日判時1808号69頁)。
5 無断売買、一任売買
無断売買が違法性を有する(また、その効果は委託者に帰属しない)ことは当然であるが、一任売買は、顧客自らシビアな判断をして具体的な注文をするのでなければ、顧客が、投機的取引をすることの困難さ、危険性を身を以って実感し、取引についての実のある知識経験を得ることができず、新規委託者保護育成義務の趣旨に反すること、取引が、しばしば顧客の利益と対立する業者の従業員に一任されると、過当売買、頻繁売買その他、顧客の利益を害する取引がなされる危険性が高いこと、顧客の自由な意思が取引に反映されず、市場における公正な価格形成をも阻害すること等から、法律によって禁止されるなどしている(法136条の18第3号、法施行規則第46条第3号、準則第24条第1号、同第6条)。
裁判例も、「(一任売買を禁止する上記法令諸規定等は)先物取引受託業者や登録外務員たる従業員が顧客に対して負担する注意義務の内容であるとも解される」(神戸地裁尼崎支部判平成11年9月14日先物取引裁判例集27号1頁)等としている。
もっとも、裁判例では、一任売買それ自体よりも、そのような状況に乗じてされた無意味な反復売買が問題とされることが多い。
6 過当な頻繁売買、特定売買等
圧倒的多数の対面取引においては、高率の手数料が設定されており、反復売買は、委託者に対して、委託金額の大部分を手数料として失わせる危険を負担させることになる反面、商品取引員等が、委託者の犠牲の下に多額の手数料を得ることになるから、委託者に対して、その最も利益となるように取引の受託をすべき注意義務を負う商品取引員等には、短期間に頻繁に売買することを勧誘し、あるいは、無意味な反復売買をしない注意義務がある。旧旧取引所指示事項7は、「短日時の間における頻繁な建て落ちの受託を行い、または既存玉を手仕舞うと同時に、あるいは明らかに手数料稼ぎを目的とすると思われる新規建玉の受託を行うこと」を禁止し、旧取引所指示事項2(1)も、「委託者の十分な理解を得ないで、短期間に頻繁な売買を勧めること」を禁止している。
そして、反復売買の有無、及び、それが商品取引員等の注意義務違反を構成し、違法性を帯びるかについては、主務省が、受託業務の適正のために商品取引員にその数値を報告すべきものとし、これに基づいて、売買状況を評価し、問題があると認めたときには、許可更新等の資料とするなど必要な措置を採るものとしていたこと(農林水産省通達「委託者売買状況チェックシステムについて」、同「実施に関する細目」、旧通商産業省通達「売買状況に関するミニマムモニタリング(MMT)について」、同「処理要領」。以下、「チェックシステム等」という。)等から、以下のような、客観的数値に照らして検討することが合理的であり、近時、このような、客観的違法性論とでも言うべきアプローチを採る裁判例が増えている。
(1)売買回転率(月間回転率)
売買回転率とは、全取引回数(建てて落とすごとに1回と数える)を取引日数で除し、これに30を乗じて得られる数値であり、これにより、取引の頻度が、平均して1か月間に何回の取引が行われたかという客観的な数値によって示されることになる。
(2)手数料化率
ここで手数料化率とは、損金に占める手数料の割合をいうが、これが高い数値を示す場合には、商品取引員等が、委託者の利益のために委託を行うべき旨の注意義務に反し、自己の利益のために委託者を犠牲にしようとしたことが推認される。
なお、チェックシステムにいう手数料化率は、預かり委託証拠金に占める受取委託手数料の割合をいうものとされているが、商品取引員等の行為の違法性を基礎付けるために無意味な反復売買を繰り返した程度を判断し、違法に手数料稼ぎを行ったか否かを判断する指標としては、上記のように、損金に占める、手数料の割合に着目するのが妥当である。
(3)特定売買率
特定売買とは、チェックシステム等において売買状況の適否を判断するための指標として挙げられた、「直し」、「途転」、「日計り」、「両建」、「不抜け」の、5種類の取引をいう。 【a】 直し
直しとは、既存の建玉を仕切った同じ日に、これと同一のポジションの建玉を行うことをいう(限月が違う場合を含む。)。同一ポジションの建玉をするのであれば、あえて仕切らなくても、そのまま建玉を維持していればいいのであって、委託者にとっては、手数料を1回分余分に支払わなければならないデメリットがあるのみで、メリットがないのが通常であり、他方、商品取引員等には、余分に手数料を得ることができるというメリットがある。また、既存の建玉を仕切って生じた取引差益を証拠金に振り替え、より多くの建玉を行う場合(利乗せ建玉、全額を証拠金として建玉を行っている場合には、利乗せ満玉という。)には、委託者に過当な売買を行わせ、より危険な立場に置くことになる。
【b】 途転
途転とは、既存の建玉を仕切るのと同日に、反対のポジションの建玉を行うことをいう(限月が違う場合を含む)。途転は、相場観を変更したときには、それなりの合理性を有することは否定できないとしても、これが無定見に行われたときには、手数料稼ぎの兆表といえる。
【c】 日計り
日計りとは、新規に建玉を行い、同一日内にこれを仕切ることをいう。一日ではたいした値動きもないのが通常であり、委託者にとっては、手数料がかかるというデメリットのほかにメリットはない。また、日計りは、常時相場の行方を観察していなければこれをよく行うことは不可能であるから、先物取引以外になすべき日常の業務、家事等を有する者にこれを勧誘することは、結局、委託者に、商品取引員等の勧誘に盲目的に従わせて取引を行うことを余儀なくさせるものでもある。
【d】 両建
両建とは、既存の建玉と反対のポジションの建玉を行うことをいう(限月が違う場合を含む。)。両建は、売・買双方から証拠金を徴収されなかった時代において、迷ったときに様子を見るために用いたり、追証準備のための時間稼ぎのために用いられた手法であり、今日これを行う意味はない。仮に、両建に、先物取引に熟達した者にとっては、自己の相場観が外れた場合に、損失の顕在化を先送りにすることによって、今一度冷静になって相場を見直すことができるという、心理的なメリットがあるとしても、先物取引に熟達していない者にとっては、相場判断を誤った状況にあるにもかかわらず、価格が下がったところで売り玉を仕切り、価格が上がったところで買い玉を仕切るという、相場の波が単に上がるか下がるかの通常の相場判断と比較し、より複雑で困難な相場判断を的確になすことによってようやく達成しうる両建のメリットを享受しうるとは到底考えられず、ただ手数料を2倍支払い、しかも、新たに委託証拠金を拠出する必要があるというデメリットがあるのみである。
商品取引法改正法、金融先物取引法改正法施行規則は、同一枚数、同一限月の両建勧誘を明示的に禁止している。
裁判例にも、「両建は、端的にいえばほぼ決定的となった損失額を後日に繰り越すに過ぎない消極的な取引手法であって、売・買双方から証拠金を徴収されなかった時代において、迷ったときに様子を見るために用いたり、追証準備のための時間稼ぎのために用いられた手法であり、今日これを行う意味はない・・・(両建を禁止した旧旧取引所指示事項10の)趣旨は、両建を利用して委託者の損勘定に対する感覚を鈍らせることの防止にあ」り、禁止される両建には、異限月のものを含む(上記大阪地判平成4年7月24日)、「(両建は)今日これを行う意味はない。両建を勧めることも、取引所指示事項の禁止事項である。」、「(両建は)有害無益性(が)特に強い」(東京地判平成4年8月27日)、「両建玉は、元の建玉に損失が発生している場合、これを行うと、元の建玉の損失が固定されるとともに、新規の反対建玉の手数料の負担がかかるものである。そのうえ、元の建玉に追証の必要があるのに両建した場合に、最終的な益金を出すには、元の建玉に追証が必要とならない時期に、値洗い益が出ている反対建玉の価格がその相場の天井(買建玉の場合)又は底(売建玉の場合)であることを判断した上でこれを決済する必要があり、このような相場判断は、相場の波が単に上がるか下がるかの通常の相場判断と比較し、かなり困難な予測が求められるものである。そうすると、元の建玉に損失が生じて追証を支払わなければならない顧客から両建玉の委託を受けた商品取引員としては、前記忠実義務に基づき、顧客に対し、両建玉をして同時にこれを決済すると、元の建玉の損失のほかに反対建玉の手数料も負担しなければならない旨を説明するとともに、両建玉によって最終的な益金を得ることはかなり困難であることを説明する義務がある」(大阪地判平成9年2月24日)、「両建は、同時に売りと買いを手仕舞いする場合には委託手数料を倍額支払うだけにすぎず,売りと買いを別々に行って利益を出そうとすれば、市場の動向に絶えず注意して時期を逸しないで売りまたは買いをする必要があるが、このような判断は取引に通暁した相当の経験者のみのなしうるものであることは見やすい道理であり、このような問題点を指摘しないまま、理解の十分でない取引未経験者に敢えて両建を勧めることは、目前の損失の現実化を回避して損得勘定の感覚を鈍らせ、取引にのめり込ませ、委託手数料のみならず差損金を累積させる危険に陥らせることでしかない。」(岡山地判平成9年5月27日)などとしている。
【e】 不抜け
不抜けとは、取引によって利益が生じているものの、当該利益が委託手数料より少なく、差引損になっているものをいう。手数料も超えない利益であるのに落玉してしまうというのは、利益を目的として取引を行う委託者の通常の意思に合致しないから、商品取引員等による手数料稼ぎとして、委託者の無理解に乗じて行われたことが推認される。
(4)特定売買は、上記のとおり、通常、手数料を要するのみで委託者の利益に反する取引であることから(新潟地判平成12年6月14日は、特定売買の不合理性を「裁判実務上顕著な事実である」という。)、その、全取引に占める頻度(特定売買比率)が高ければ、商品取引員等が、自己の利益のために無意味な反復売買を繰り返したものとして、商品取引員等の不法行為を基礎付ける一根拠事実となる。
最判平成7年7月4日は、月間回転率を3.79回と認定し、「多数回の反復売買が繰り返された」とした原審(仙台高裁秋田支部判平成2年11月26日)の判断を正当であるとし、最判平成10年11月6日先物取引裁判例集25号135頁は、「チェックシステムに掲げる各種の特定売買は、一般に、委託者に売買委託手数料の負担を生じさせるばかりで、その利益につながらない取引の類型に属する。個々の取引の際の個別の事情を捨象しても、一定期間の取引を全体的に観察し、右のような特定売買の比率が異常に高いときには、特段の事情がない限り、商品取引員において、顧客の利益を犠牲にして全体として売買委託手数料稼ぎを目的として行ったことを推認するのが相当である。」、「手数料の損金比率は、取引途中においては必ずしも合理的な取引の指標とはなり得ないが、取引終了後に、顧客に取引全体から生じた損失の要因を観察、評価する上では、有効な指標になると解される。」とした原審(大阪高判平成10年2月27日判時1667号77頁)の判断を正当であると判示している(なお、原審の認定は、月間回転率3.37回、特定売買比率50パーセント、手数料化率43パーセント)。
これら「客観的違法要素」は、取引履歴の分析によって容易に見出すことができ、記憶に頼ることなく立証できるものである。投機的取引において客観的取引履歴を分析することは不可欠である。
もっとも、こうした数値を論じるのみでは、現状では裁判所の理解を得にくい。個別の取引について、具体的な不合理性を主張立証して初めて、上記各数値から違法を推認するとの判断がなされてきたことを正しく理解する必要がある。
7 仕切拒否、同回避
「一般に商品先物取引は極めて専門的で複雑な仕組みになっているため、その仕組みを十分理解した上で自らの相場観に基づいて主体的に取引を委託することは決して容易なことではなく、このことは過去に若干の取引の経験がある反訴原告にあっても例外ではない。したがって、そのような反訴原告にとって商品先物取引は危険に満ちたものであることを失わないところ、手仕舞はその取引に完全に終止符を打つものであるから、最大かつ最善の安全策である。これに対して、商品取引員の収益は顧客からの委託取引の際に得られる委託手数料に依拠しているわけであるから、商品取引員にとって顧客の手仕舞は最も望ましくない事態にほかならず、それ故、顧客が手仕舞の意向を示している場合にあっても、取引員としては、ともすれば、その損失を取り戻すことを口実に取引の継続を勧めるなどして、簡単には手仕舞をさせないというようなことが起こりがちである。それだけに、この点については委託者保護の見地から厳格に解すべきであり、したがって、顧客が一旦手仕舞を指示した以上は、取引員としては右指示に直ちに従わなければならず、決して取引を継続させる方向に誘導するようなことがあってはならないのである。そうすると、手仕舞を求める反訴原告の態度にやや曖昧な側面があったり、その後の対応に反訴原告の真意を訝るような部分がある(顧客が、送付された残高照合通知書等に対して異議を述べなかった)からといって、(顧客が、仕切りを求めた日以降の取引に)承諾を与えていたものとするのは相当ではな」い。それ以降の取引は無断売買になり、不法行為を構成する(福岡地判平成9年6月17日先物取引裁判例集22号114頁)。 |
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 以上のとおり、様々な違法要素が競合して見られるのが先物取引被害の実際であり、被害者が具体的に「不満」を持っている「外務員の対応」などに拘泥して事案の本質を見失ってはならない。
また、事案ごとに個性があることは当然であり、漫然と網羅的主張をして事案の焦点をぼけさせて、真に問題とされるべき違法事由を見誤ってはならない。 |
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