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ロコ・ロンドン貴金属取引

1 問題の所在
 平成17年7月に施行された改正金融先物取引法によって、「外国為替証拠金取引」について不招請勧誘の禁止、登録制度の導入などの規制がなされたことから、「外国為替証拠金取引」業者の多くが消滅した。しかし、近時、「外国為替証拠金取引」業者の構成員であった者らが、「ロコ・ロンドン貴金属取引」、「店頭ロンドン渡し金取引」、「貴金属スポット取引」、「CFD取引」なる私的差金決済取引を創出し、被害の拡大の傾向を見せている。このような私的差金決済取引の違法性についての基本的な考え方は、「外国為替証拠金取引被害の事件処理」(消費者法ニュース60号168頁)、「『ロコ・ロンドン貴金属取引』の違法性について」(消費者法ニュース70号200頁)において整理したところである。このような取引は、その存在自体が許されるべきではない。

2 「ロコ・ロンドン貴金属取引」とは
 「ロコ・ロンドン貴金属取引」とは、海外における貴金属の現物価格を差金決済指標としてする、「私設」「海外」「現物まがい」「証拠金」取引である。「ロコ・ロンドン貴金属取引」の基本的な内容は、取引単位や証拠金金額・証拠金率に業者ごとの差異があるが、おおよそ次のとおりである。すなわち、顧客は、業者に対して、ロンドン渡しの金現物100トロイオンス(1トロイオンス=31.1035グラム)を1取引単位とする最低取引単位あたり50万円程度の「保証金」を支払ってロンドン渡しの金を売買したと同様の(差金決済を行う)地位を取得し、任意の時点で当該地位(ポジション)と反対の取引をすることによって生ずる観念上の差損益について差金の授受を行う。また、顧客は、取引を行うことにより、(いかなる理由に基づくものかは不明である。ドルと円の運用益の差に着目するとするものと金の受渡し時期の繰り延べの精算に着目するものがある)1取引単位当たり1日数百円程度の「スワップ」と称する「金利」を得ることができる(買いポジションに付する業者と売りポジションに付する業者がある)。なお、差金決済指標となる「ロンドン渡しの金」の価格は(相対取引であるから当然といえば当然であるが)、業者が任意に設定し、かつ、同取引のために決せられる必要がある「為替レート」も業者が任意に設定するものとされている。さらに、上記「スワップ」も、業者が任意に設定するものとされている。また、取引には手数料を要する。このように、「ロコ・ロンドン貴金属取引」は、業者が提示する「ロンドン渡しの金現物価格」及び「ドル円為替変動」を差金決裁指標とする差金決済契約である。

3 「ロコ・ロンドン貴金属取引」の仕組自体の違法性
 上記のような取引は、それ自体が存在を許されないものであるといわなければならない。このことは、直感的にも、海外市場において外国通貨建てで何らかの取引を行ったものと仮定し、これにレバレッジを掛けた取引を任意に創出できることになれば、外国為替証拠金取引に対する規制は全く空文化することになってしまうことや、国内の先物取引の類似取引が禁止され、相場による差金の授受が禁止され、海外先物のノミ行為が禁止されている趣旨が全くおかされてしまうことを考えれば容易に理解しうるものと思われる。
 「ロコ・ロンドン貴金属取引」は、賭博として刑事罰を以て禁止される行為を、あたかも何らかの真っ当な金融商品取引であるかのような外観を生じさせて、高率の手数料を徴求し(貴金属の価格で利ざやを得ようとする取引をしたいというのであれば法律で整備された国内の先物取引を行えば足りるのであって、手数料も本件取引の方が割高である)、一方的に証拠金を徴求し(保全の措置が法律上整備されているわけではないから利益金はおろか証拠金でさえ返還される保証はなく、現実に平成17年には外国為替証拠金取引業者の多くが証拠金を返還することなく破綻したことは記憶に新しい)、差損益計算に大きな影響を及ぼす差金決済指標である外国為替及び金現物価格を一方的に業者において決定することとして(なお、業者が顧客に著しく不利益なにレートを設定することによって顧客の証拠金を不当に消滅させていた事例も確認されている)、業者において業として、図利目的で、常習的に行われるものであり、そのようなものであると聞かされれば通常人でればこのような取引を行うとはおよそ考えられない「いかさま賭博」、「詐欺賭博」とでもいうほかはないものであるから(したがって、取引の実際を明らかにしない詐欺的勧誘が不可避的に生じる)、これをあたかも何らかの真っ当な金融商品であるかのように誤信させて一般消費者を勧誘してこれを行わせて証拠金等名下に金銭の交付を受ける行為は、公序良俗に著しく反し、私法上も不法行為を構成させるに十分な違法性を有するものであるというべきである。
 日弁連も、平成19年3月16日付でいち早く、このような商法の仕組自体を違法とする「『ロコ・ロンドン金取引』商法の被害に関する意見書」を採択し、各地の弁護士会も同旨の意見書等を採択しているところである。

4 特定商取引法の適用
 ところで、平成19年7月15日施行の特商法施行令は、「ロコ・ロンドン貴金属取引」を指定役務として特商法の規制に服させようとしている。もっとも、原状回復義務は法人としての業者のみにしか生じないことなどにより、現在我が国で急増の傾向を見せているこの種取引をクーリング・オフなどによる簡易な被害回復手続きによって救済することには様々な困難も予想される。筆者の個人的感覚では、同法の利用によってはこの種商法に適切には対応できない。

5 東京高判平成20年3月27日
 東京高判平成20年3月27日は、取引の仕組み自体を違法であるとはいえないなどとして請求を全部棄却した東京地判平成19年10月25日を変更して被害者逆転勝訴判決をした。「ロコ・ロンドン貴金属取引」商法の違法性を簡潔に断じる初めての判決であり、これまでの私的差金決済取引被害群の判決の流れを引き継ぐものであって、その限りでは適切である(なお、本判決が過失相殺をしているのは誤解に基づくものであるというしかない。商法自体が違法なのであるから、過失を云々することは公平に悖る。)。いわゆる「ロコ・ロンドン貴金属取引」商法はそれ自体が違法であるというのであるから、今後の訴訟実務においては迅速な被害回復がされることが期待される。
 本判決の判示内容は、以下のとおりである。
 「本件取引においては、売主である被控訴人会社(注:業者)が金の現物を買主である 顧客に交付することは当初から予定されておらず、顧客が一定の期間内に反対売買をすることを前提として、これによってその差額を算出し、これを金銭で授受して当該取引を終了させるものであると認められる。しかるところ、売買差金の額は、顧客が買った(売った)とされる金の「ロンドン渡しの金の現物価格」に「ドル円の為替レート」を乗じた額との差額によって算出されるものであり、そして、「ロンドン渡しの金の現物価格」も「ドル円の為替レート」も、基本的には、被控訴人会社及び顧客において確実に予測できないものでありまたその意思によって自由に支配することもできないものであるから、そうとすれば、本件取引は被控訴人会社と顧客との間において偶然の事情によって利益の得喪を争うものといわざるを得ず、本件取引は賭博行為に該当するというほかはない。そして、本件全証拠によっても、本件取引(賭博行為)の違法性を阻却する事由を認めることはできない。したがって、仮に控訴人において本件取引の仕組みやリスクを理解して任意に本件取引を行ったとしても、控訴人を顧客として本件取引(違法な賭博行為)に勧誘しこれに誘い入れた点において、その勧誘行為を実際に行った被控訴人Aはもとより、その勧誘について被控訴人Aと意思の連絡があったものと推認される被控訴人Bら(取締役ら3名)も、民事上の不法行為責任を負うものというべきであり、そして、被控訴人会社も民法715条1項又は会社法350条により控訴人に対して損害賠償責任を負うべきものである。」
 本件損害賠償請求にも民法708条が適用ないし類推適用されるが、「(請求金額のうち損金は)賭博に負けたことによって被控訴人に交付された金銭及び(手数料は)賭博を行うためのいわゆる寺銭であるというべきであるから、そうとすれば、これらは公序良俗に反する行為を目的としてあるいは公序良俗に反する行為を行った結果として交付されたものということができ、民法708条本文にいう「不法な原因」のために給付されたものと言うことができる」。しかし、「(被害者の属性、被控訴人会社から勧誘されたものであること、被控訴人が手数料を得るものであること、その額は証拠金の1割に相当すること、などを考慮すると)本件取引(賭博行為)についてはその不法な原因は受益者である被控訴人会社により多く存したもの、換言すれば、不法性は被控訴人会社の方が控訴人に比べてより強いもの、というべきである。」から、その返還請求の趣旨である損害賠償請求をすることができる。

6 上記高判のその後
 上記東京高判の事例は、上告受理申立て後に業者との間で「被害者があり得べき差し戻し審において請求の拡張をしないことと引き替えに、業者が被害者に対して控訴審が棄却した部分の実損害相当損害金を支払う」という内容の合意が成立している(控訴審判決以上の支払を受けるというのは異例の事柄である)。業者は自らの行為の悪質性を自覚しているのであって、ひとり裁判所が理不尽な過失相殺などをするというのは滑稽なことであるというほかはない。
 この種の商法は業者の法人格が短期間に消滅することによって被害回復の困難が生じるが、違法行為を行った自然人の責任を正しく追及することによって法人格の存在等にかかわらず賠償をさせるような手続を採ることが必要である。

(以上、「消費生活相談員のための判例紹介」に若干の加筆をしたもの)

7 東京高判平成20年10月30日
 東京高等裁判所平成20年10月30日判決は、ロコ・ロンドン貴金属取引について、賭博に該当する違法なものであるから、仮に被害者が取引の仕組みやリスクを理解して取引を行ったとしても、このような取引に勧誘してこれに引入れた従業員・役員らは、共同不法行為責任を負うとして損害の全部賠償を命じた。ロコ・ロンドン貴金属取引をその仕組自体から違法であるとする判断を明示したものであり、その判示内容は、以下のとおり。
 「本件取引は、「ロンドン渡しの金の現物価格」及び「ドル為替変動」を差金決済の指標とする差金決済契約である。「ロンドン渡しの金の現物価格」も「ドルの為替レート」も、業者及び顧客には予見することができないものであり、、また、その意思によって自由に支配することもできないものであるから、本件取引は偶然の事情によって利益の得喪を争うものというべきであり、賭博行為に該当する。そして、本件全証拠によっても、本件取引の違法性を阻却する事由を認めることはできない。仮に被害者において本件取引の仕組みやリスクを理解して本件取引を行ったとしても、顧客として勧誘しこれに誘い入れた点において、その勧誘行為を実際に行った従業員及び役員らは共同不法行為責任を負う。取引が終了して清算条項付の和解がなされたという業者の反論に対しては、取引が終了していなかったことから、合意書作成時点において和解の合意をする必要性が認められないとして、和解の合意が成立したとは認められない。」(同判決はこちら
本判決は、判決裁判体の構成等からしてもその内容からしても強い影響を与えることになるものであり、ロコロンドン商法を壊滅させるに十分な判例であると考えられる。同判決の周知により、この種詐欺商法が消滅することを期待する。

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