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ロコ・ロンドン貴金属取引

はじめに
 平成17年7月に施行された改正金融先物取引法によって、「外国為替証拠金取引」について不招請勧誘の禁止、登録制度の導入などの規制がなされたことから、「外国為替証拠金取引」業者の多くが消滅した。
しかし、近時、「外国為替証拠金取引」業者の構成員であった者らが、「ロコ・ロンドン貴金属取引」なる私的差金決済取引(「貴金属保証金取引」、「貴金属スポット取引」などと称する業者もある)を創出し、被害の拡大の傾向を見せている。このような取引は、通貨先物取引から「スワップ金利」を切り離したのみで「高金利」などという「勧誘しやすい商品」を生み出しうることに「味をしめた」独立系外国為替証拠金取引業者らが、新たに「高金利」がつくという勧誘文言を用いうる私的差金決済取引を創出しようとしたものと考えられる。このような私的差金決済取引の違法性等についての基本的な考え方は、本ホームページの「外国為替証拠金取引」欄記載のとおりである。裁判例も、基本的にこれと同じ考えに立つことが平成20年3月27日にようやく示された(東京高判平成20年3月27日)。


ロコ・ロンドン貴金属取引のしくみ
 「ロコ・ロンドン貴金属取引」の基本的な内容は、おおよそ以下のとおりであるようである。すなわち、
顧客は、業者に対して、ロンドン渡しの金現物100トロイオンス(1トロイオンス=31.1035グラム)を1取引単位とする最低取引単位あたり50万円の「保証金」を支払ってロンドン渡しの金を売買したと同様の(差金決済を行う)地位を取得し、任意の時点で当該地位(ポジション)と反対の取引をすることによって生ずる観念上の差損益について差金の授受を行う。
 また、顧客は、取引を行うことにより、(いかなる理由に基づくものかは不明であるが、1取引単位当たり1日数百円の「スワップ」と称する「金利」を得ることができる。
 なお、差金決済指標となる「ロンドン渡しの金」の価格は(本件取引が相対取引であるから当然であるが)、業者が任意に設定し、かつ、同取引のために決せられる必要がある「為替レート」も業者が任意に設定するものとされている。さらに、上記「スワップ」も、業者が任意に設定するものとされている。
また、1取引単位当たり、5万円程度の「手数料」及びその5パーセントの消費税が徴求されることになっている。

具体例
 例えば、ある具体的取引に即してみると、1トロイオンスあたり586.02ドル、1ドルを116.39円として6取引単位(600トロイオンス)の金を購入したときの差金決済契約上の地位が取得されたことになり、その取引総額は約4092万4120円となるところ、これが300万円の「保証金」によってなされていることから、レバレッジ(倍率)は、約13.6倍となり、ロンドン渡しの金価格とドル円為替レートを掛けた数額がおよそ13パーセント変動すれば、預け入れた証拠金が全て失われる計算となる。
 なお、金価格のボラティリティは極めて高く、ドル円為替相場の変動率も決して小さくはない(このことは、国内金先物取引被害事案、ドル円を差金決済指標とした「外国為替証拠金取引」被害を多く取り扱われてきたであろう実務家にとって顕著な事実であると思われる。)。

ロコ・ロンドン貴金属取引の法的性質
 このように、「ロコ・ロンドン貴金属取引」は、業者が提示する「ロンドン渡しの金現物価格」及び「ドル円為替変動」を差金決裁指標とする差金決済契約である。

いわゆる「ロコ・ロンドン市場」、「インターバンク市場」との関係等
(1)「ロコ・ロンドン貴金属取引」において差金決済指標として用いられているのは、「ロコ・ロンドン」市場の金価格である。しかし、現実にロコ・ロンドンにおいて現物が買い付けられているわけではなく、その価格が差金決済指標として用いられているにすぎない。
 金の現物市場の中で世界的に重要な位置を占めているのはロコ・ロンドン市場である。「ロコ」とは「置き場」あるいは「・・・渡し」という意味であり、したがって、金のロコ・ロンドンとはロンドンにおいて金を受渡する取引という意味である。ここでの取引は、電話やロイター端末を通じたロイターデイーリング、インターネットなどによる相対取引が中心である。この市場ではマーケットメーカーが売りと買いの気配値を顧客に提示しており、取引の中心的な役割を果たしている。このマーケットメーカーのオフィスが集中している地域は、シドニー、東京、香港、チューリッヒ、ロンドン、ニューヨークである。紛らわしいが、ロコ・ロンドン(ロンドン渡し)の取引は、ロンドンだけで行われているわけではなく、当然、東京あるいはニューヨークでも行われており、ロンドンのビジネス時間にかかわらず、その他の時間帯でも行われている。
 ロコ・ロンドンの取引ルールは取引慣習に従い、LBMA(London Bullion Marker Association)と呼ばれる貴金属の取引ディーラーの自主規制団体により決定されている。
 マーケットメーカーが提示した価格に対し、最低引き受けなければならない単位が決まっている。この最低単位が、かつては金では4000トロイオンスであったが、現在は5000トロイオンス(1トロイオンス=31.1035g)が主流となっている。それを超える数量であれば、マーケットメーカーは取引を拒否することができる。
 取引の決済はロンドンの銀行や金取引業者に口座を開設し、口座間で残高を移動させる方式で行われる。口座には現物の受渡を伴う「特定口座」と、記帳のみで一切の現物の移動を伴わない「不特定口座」の2種類があり、後者が一般的である。決済日は取引の2営業日後(T+2)となっている。
 通貨はドル建てで取引されている。
 ロコ・ロンドンでは、フィキシング・メンバーと呼ばれる5大業者(スコシア・モカッタ・バークレイ銀行、ドイツ銀行、HSBC、ソシエテ、ジェネラル)の代表が毎日午前10時と午後3時に、各社のディーリングルームをロイターディーリングや電話回線で結び、板合せ仕法により、ロコ・ロンドンの金のスポット価格を決定するロンドン・フィキシングが行われており、当該価格が世界的な金の価格指標として利用されている(「東京工業品取引所講習会テキスト‐貴金属取引の基礎知識‐」)。
 「ロコ・ロンドン貴金属取引」においては、現実に金の現物取引がなされている訳ではなく(業者に、顧客からの預かり資産の13倍もの金を買い付ける資力があるともおよそ考え難い。)、ロコ・ロンドンの金現物価格が「参考」にされて差金決済指標として用いられているのみである。

(2)「ロコ・ロンドン貴金属取引」が行われるに際して用いられる「為替レート」は、インターバンク市場における数値を一応の基準として、業者が決定するものとされている。
 インターバンク市場と私的相対取引との関係は消費者法ニュース60号168頁記載のとおりである。

上記のとおり、「ロコ・ロンドン貴金属取引」は、顧客と業者がそれぞれ互いに差金決済契約の当事者となってロンドン渡しの金価格及び為替変動に基づく金銭の得喪を争う、相対(あいたい)取引である。この点で、証券取引や商品先物取引等の「受託」とは、その性質が全く異なる。

賭博罪等該当性(賭博行為としての反公序良俗性
 このような本件取引は、金相場及び為替相場の変動という偶然の事情によって財物の得喪を争う行為であって、刑法上の(単純)賭博罪、常習賭博罪、賭博場等開帳図利罪に該当する。
 そして、賭博罪該当行為は、法令による違法性阻却によって、はじめて法令行為(刑法35条)として刑法上、また、民事法上適法となるものであると解される。
差金決済取引が賭博の構成要件に該当すること、法令の範囲内で行うことにより初めて適法なものとして是認されうるものであることについては、消費者法ニュース60号169頁以下記載のとおりである(なお、消費者法ニュース平成19年1月号にロコ・ロンドン貴金属取引に即して議論を再度整理している。)。
 「ロコ・ロンドン貴金属取引」がごとき「私設」「海外」「現物まがい(先物)」「証拠金」取引など、到底法が許容するところではない。
 このような商法が発生しているのは、いわゆる「外国為替証拠金取引」被害が多発した時期に、裁判所が混乱し、「私的差金決済契約」でも「現物取引を基礎にしている」外観があれば違法でないとの判断を示す例があったことに起因することに、裁判所は今更ながらに自戒の念をこめて想到する必要があると思う。

裁判例
 ロコ・ロンドン貴金属取引商法については、東京高判平成20年3月27日が以下のとおり判示して、取引の仕組み自体を違法であるとはいえないなどとして請求を全部棄却した東京地判平成19年10月25日を変更して逆転勝訴判決をした。ロコ・ロンドン貴金属商法の違法性を簡潔に断じる初めての判決として好意的に報道されてもおり、これまでの私的差金決済取引被害群の判決の流れを引き継ぐものであって、被害者が勝訴するべきことは当然であると考えるが、「私設賭博性」と違法性との関係などについてなお十分な理解をしていないものといわざるを得ない。また、組織的な詐欺商法であるロコ・ロンドン貴金属商法について、取引の仕組み自体を違法なものであるとし、不法原因給付であるけれれども違法性が業者の側にあるとして返還請求が可能であるとする反面、被害者の軽率さをそれこそ軽率にあげつらう面も見せており、適切ではない。
 もっとも、取引自体の違法性を直裁に指摘する初判断であり、しかも1審判決を変更して判断を示す控訴審判決であるから、先例的価値は大きい。判示内容は、以下のとおりである。
 「本件取引においては、売主である被控訴人会社(注:業者)が金の現物を買主である 顧客に交付することは当初から予定されておらず、顧客が一定の期間内に反対売買をすることを前提として、これによってその差額を算出し、これを金銭で授受して当該取引を終了させるものであると認められる。しかるところ、売買差金の額は、顧客が買った(売った)とされる金の「ロンドン渡しの金の現物価格」に「ドル円
の為替レート」を乗じた額との差額によって算出されるものであり、そして、「ロンドン渡しの金の現物価格」も「ドル円の為替レート」も、基本的には、被控訴人会社及び顧客において確実に予測できないものでありまたその意思によって自由に支配することもできないものであるから、そうとすれば、本件取引は被控訴人会社と顧客との間において偶然の事情によって利益の得喪を争うものといわざるを得ず、本件取引は賭博行為に該当するというほかはない。
 そして、本件全証拠によっても、本件取引(賭博行為)の違法性を阻却する事由を認めることはできない。
 したがって、仮に控訴人において本件取引の仕組みやリスクを理解して任意に本件取引を行ったとしても、控訴人を顧客として本件取引(違法な賭博行為)に勧誘しこれに誘い入れた点において、その勧誘行為を実際に行った被控訴人Aはもとより、その勧誘について被控訴人○と意思の連絡があったものと推認される被控訴人Bら(取締役ら3名)も、民事上の不法行為責任を負うものというべきであり、そして、被控訴人会社も民法715条1項又は会社法350条により控訴人に対して損害賠償責任を負うべきものである。」
 本件損害賠償請求にも民法708条が適用ないし類推適用されるが、「(請求金額のうち損金は)賭博に負けたことによって被控訴人に交付された金銭及び(手数料は)賭博を行うためのいわゆる寺銭であるというべきであるから、そうとすれば、これらは公序良俗に反する行為を目的としてあるいは公序良俗に反する行為を行った結果として交付されたものということができ、民法708条本文にいう「不法な原因」のために給付されたものと言うことができる。」
 しかし、「(被害者の属性、被控訴人会社から勧誘されたものであること、被控訴人が手数料を得るものであること、その額は証拠金の1割に相当すること、などを考慮すると)本件取引(賭博行為)についてはその不法な原因は受益者である被控訴人会社により多く存したもの、換言すれば、不法性は被控訴人会社の方が控訴人に比べてより強いもの、というべきである。」から、その返還請求の趣旨である損害賠償請求は許される。