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債権回収・強制執行手続等

1 強制執行手続とは

 強制執行手続とは,簡単に言えば判決などの債務名義に記載された請求権を国がその権力によって実現しようとする手続である。債務名義とは,確定判決その他の私法上の給付請求権の存在及び内容を公証するとともに,その給付請求権に強制執行の手続により実現を図ることができる効力(執行力)を付与する文書である。債務名義を得ることが本案訴訟(一般に民事裁判といわれるのはこれである)の経済的目的である。裁判に勝った負けたというのはこの本案訴訟で請求が認容されたかどうかという問題である。
 しかし,実際には,詐欺商法業者などに対する損害賠償請求権はもちろん,通常の中小企業に対する売掛金債権や離婚に伴う養育費等についても,請求を認容する判決が確定したり,公正証書の作成を経ていたりしても,任意に支払をしようとしないということが往々にしてある。
 そういうときには,様々な強制執行手続を試みていく。訴訟で勝訴判決を得ても,裁判所が支払をしてくれるわけではないし,裁判所が相手方の財産を探知してくれるわけでもない(新設された財産開示制度は現状ではほとんど役に立たない。)。自身で財産を探知し,特定し,強制執行手続を採らなければならない。

2 強制執行の対象となるべき財産とその選択

 強制執行の対象としては,差押え禁止財産を除く様々な財産がある。不動産,家賃,敷金返還請求権,預貯金,給料・賞与・退職金・退職慰労金,供託金,税金還付請求権,診療報酬,売買代金・請負代金・売上金,貸金,保険金,保険の解約返戻金・保険の社員配当金・保険の満期返戻金,保有有価証券,未発行株式,社員の持分,預託金,配当金,電話加入権,総合ディジタル通信サービス利用権,高級自動車,高級家財などが対象として検討することが多い。
 これらの中から,何を,どのタイミングで,どの順序で強制執行の対象として選択するかは,相手方の財産保有状況,生活の状況に応じて千差万別であり,左記状況についての事前の調査の結果と,これを基礎とした,直感とでもいうほかはない経験に基づく感覚的選択によることになる。時間の兼ね合いと調査の実効性等の見通しも即時に判断しなければならない。漫然と執行手続を行って債務者の防御を固めさせてしまうことのないような配慮が必要である。

3 いくつかの手続例

(1)不動産強制競売
 不動産があり,抵当権がないなどの場合には,迷わず不動産執行をするべきである。余剰がなくても住宅ローンが払われ続けることによって余剰価値が生じてくることもある。第三者に所有権が移転されている場合であっても,詐害行為取消権を行使して不動産に設定された抵当権設定登記や譲渡の登記を抹消して不動産の価値を回復してから不動産強制競売の申立を行うこともある。

(2)給与等執行
 奏功可能性が高いのが給与執行である。例えば,詐欺業者であっても,一時の狂奔を離れてみれば,いつまでも無為徒食のままではいられない。詐欺組織の消滅後にもきちんと責任を取らせることは大切であると感じる。少しずつでも被害回復がなされれば被害者の精神安定も格段に増す。通常の事件であればなおさら,一定の奏功が期待されるが,給与等執行の前にその他の財産に対する執行可能性を模索するのが望ましい。一度に債権の全ての満足を受けることはできず,債務者側の態度をも相当程度変化させることになる執行であるから,一括して債権の満足が図れる執行手続を見逃すことのないような配慮を要する。

(3)動産執行
 詐欺的商法を行う者は毎日を食うや食わずでいるから仕方なく悪事に手を染めているというわけではない。動産執行は詐欺業者が多くの被害者の苦悩の上に保有している豪華な資産を奪還する,ダイナミックな執行である。現金はもちろん,テレビやコピー機,食器,珍しいものとしては乗馬運動器や電動マージャン卓に至るまで,差押えた対象は多種多様である。一般人であれば,執行官を伴って動産執行が実施されたということには少なからぬ衝撃を受けるのが通常であり,執行の実施によって和解の気運が高まることも期待される。
 通常は動産執行は徒労であると認識されているきらいがあるが,動産執行を端緒に数千万円もの被害回復が得られた事例もあり,軽視するべきでない。
 法人に対する業者営業所を執行場所とする動産執行では,差押手続中に金員をどこかから持ってこさせ,その場に存在する現金として差押えた例もある。動産執行は,隠匿している財産を顕出させる手段でもあるのである。

(4)電話加入権等執行
 電話加入権や総合ディジタル通信サービス利用権の執行なども,効果がない手続であるとの思い込みがあるように感じられるが,譲渡命令によって当該電話番号が使用できなくなることをきらってか支払がなされる例も少なくない。
 詐欺業者の場合には,電話番号を止めることによって新たな詐欺被害の発生を止めることもできる。

(5)仮差押
 詐欺的商法被害事案においてもそうであるが,そうでなくても,財産の隠匿・流出は日常的になされる。これに対抗するもっとも基本的な手段は民事保全手続である。珍しい例としては,高級自動車を仮差押して取上げ保管の上,緊急換価の申立をしたものや,業者の営業所に動産仮差押を行った事案などがある。仮差押の前提として,適時・適切な財産調査が不可欠である。財産調査を怠ってする仮差押は,かえって財産の隠匿を招くことになることもあり得る。

(6)債権者破産の申立
 調査,手続を尽くしてなお債権の回収を見ることができないが,何らかの財産を隠匿しており,これが破産管財人の調査によって発見されることが期待されるときなどには,債権者として,債務者の破産の申立てをすることがある。これを債権者破産の申立といい,上記の個別執行に対して包括執行とも呼ばれるものであり,本来的な破産制度の利用方法である。
 

4 預金債権,生命保険の解約返戻金等の差押えと差押債権の「特定」

(1)預金債権執行における取扱支店の特定(限定)
 預金債権の差押命令の申立に当たっては,取扱店舗を特定(限定)しなければならないとするのが実務の基本的取扱であり,複数の支店を限定列挙する方式を認めた決定例はいくつか見られるものの少数にとどまっており,全店無限定列挙方式(全取扱本支店を本支店番号の順位で順位付けをして「特定」する方式)を許容した決定例は皆無であった。しかしながら,支店を限定する執行は差押債権者に著しく大きな不利益をもたらす。
 少しでも不利益を軽減させるために,預金契約の存否さえも不明な取扱店舗を盲目的に選んで「割り付け」をして執行手続を行うなどといういかにも不健全な運用が実務上一般的に行われてさえいるが,そもそも,本店支店の関係にすぎないのに預金債権のみ支店毎に分断する運用が維持されるべきというのであれば,それは,著しく発達した預金管理システムのもとでもなお負担が過大である旨の主張立証が銀行から不断になされなければならないだろう。そうして始めて議論がかみ合い,深まり,実務が実情に即したものとなりうる。そのような状況を欠いている以上,支店の特定(限定)を求める実務のあり方には正当性に乏しいように感じられる。
 電子的記録によって預金が管理され,コンピューター上で預金口座に関する出入金情報が管理されているということは,およそ,常識に属する事柄である。いわゆる金月処理スキームやCIFの詳細を検討するまでもなく,本店で名寄せができないなどということはおよそ想定しがたいものといわなければならない。銀行を第三債務者として取扱支店を限定(特定)せずにする預金債権差押命令の申立は一般的に許容されるべきものであるし,この種の申立に円滑に対応するために望ましい検索事項として挙げられることが多かったという「生年月日」,「読み仮名」を「住所」・「氏名」に加えて一義的に特定している場合にはなおさらである。さらに,予め債権者において債権者が債務名義を有すること及び預金債権差押命令申立のために必要もしくは有用であるとし,回答がなされない場合には取扱支店を限定(特定)しないでする預金差押命令の申立をする旨記載して債務者の預金口座の存否及び取扱支店等について弁護士法23条の2に基づく照会がなされたにもかかわらず,第三債務者があえて強制執行手続を不能にするに等しい債務者の同意などを求めることによって事実上これに違法に回答しないことから取扱支店が限定(特定)されていないような場合には,「特定」を要求する趣旨である「公平」の観点に今一度立ち返って考えれば,差押債権の特定に欠けるというべきではない。
 このような考えに立って実務の変容を迫るべく,平成22年8月からこの論点への取り組みを始め,静岡地下田支決平成22年8月26日が我が国で初めて全店無限定列挙方式を許容したのを皮切りに,同旨決定例が地裁レベルで散見されるようになり,平成23年に入ると,高裁レベルでも同旨判断が相次いで示されるようになった。
 CIFシステム等のみを指摘してする発令には,若干の抵抗感が持たれないではない。システムの詳細は必ずしも外部からは分らないのであるし,それが差押手続との関係で用いられたときにどのような負担を金融機関に強いることとなるのかという点には,まだ不透明なところがあるとも思われないではないのである。CIFなどを云々するのみでは,そこで検索されない預金はどうなるのかという問題も生じる。そこで,まずは,「公平の観点からの特定性の要求」というところに着眼して,ふりがなや生年月日の記載と特定との関係を指摘したり,23条照会を先行させて取扱支店を限定できないことの「責任」の所在を明らかにするなどして,価値考量としても異論のない判断が積み上げられていくのが望ましいと考えたのである。このような観点から,東京高決平成23年3月30日は,決定理由として最も望ましいものと考えていた。
 しかし,これまでに積み上げられてきた発令例のいずれについても銀行から不服申立(執行抗告の申立)がなされておらず,陳述催告(民事執行法147条1項)に応じて陳述書が提出されている。すなわち,銀行がこのような差押命令に対応できることが,事例の集積からすでに明らかになったものということができるのである。
 この論点については,すでに複数の抗告許可決定がなされており,このような実情をも踏まえて,最高裁が充実した判断を示すことが期待されたが,当職らが担当した許可抗告審の決定2例(最三小決平成23年9月20日,平成23年(許)第28号,同37号)は,いずれもただ執行抗告を棄却した原審の判断を正当として是認することができるとのみいうものであり,その理由は何ら付されていないものであった。下級審実務はいったんこの種申立を否定する方向に向かうことになろうが,この論点についてこのような判断しか示されないことには失意を禁じ得ず(他の同種事案についても23条照会との関係などに言及するような熟した理由は付されていない。),この感覚は多くの実務家に共有されうるものと思われる。一連の下級審決定群を契機として実務の取扱いが現状に即したものに変容されていくことを期待したい。

(2)流動性預金の(将来債権としての)時間的包括的執行
 預金債権の差押えは,差押命令が第三債務者である銀行に送達された一時点に存在する預金にしか及ばない態様で発令されるのが通例である。差押命令が午前11時に送達された場合には,午前10時に送金がされたものであっても10時30分に引き出されてしまえば差し押えられないし,11時10分に送金されても差押えの対象にはならない。そこで,預金口座から頻繁に出金手続を繰り返すことで,強制執行を免れ続けながら預金口座を使い続けることが可能となっており,預金差押手続が無力化し,預金という現在の最も一般的といって良い財産保有の形態について差押手続が機能しないという極めて懸念するべき事態が生じている。預金に対する差押手続のこのような機能不全は,預金口座を犯罪ツールとして利用する経済犯罪の被害回復を著しく困難なものとし,この種犯罪の蔓延の一因ともなっている。
 「差押命令送達の時から一定期間(近時試みられたのは3営業日の間)に発生する(増加する)預金部分についての包括的差押命令」が可能となれば,この点の問題が解消され,預金執行の奏功可能性は飛躍的に高まるものと考えられた。そこで,流動性預金の法的性質などを論じて,この種の申立てを試みたことがある。
 その結果,平成21年に立て続けに発令例が現われた(奈良地方裁判所平成21年3月5日決定,高松地方裁判所観音寺支部平成21年3月25日決定)。また,その後,仮差押としての発令例も見られるようになっている。
 このような差押が許容されることとなれば,預金執行の奏功可能性は飛躍的に高まる。議論の高まりが期待されたが,東京高決平成20年11月7日金法1865号50頁・判タ1290号304頁は金融機関の煩瑣の問題を過大に取り上げて差押債権の「特定性」の問題に安易に堕としてしまっており,残念である。もっとも,特定の口座への入金を停止せずに出金のみを停止しつつ入金状況を自動的に監視し,一定の金額を超えた後は,その超える部分のみの出金を自動的に可能にする等の銀行のシステムが構築されたり(現在すでに構築されているものと考えられるがその点の議論を措くとして),差押命令に対応するために必要な時間は預金の出金が遅延することによる債務不履行責任を銀行が負わない旨の約款が整備されるなどにより,将来の預金の差押えが金融機関に不当に過大な負担を強いるものとはならないものと評価されるに至ることは十分に予測されるところであり,そのような場合に将来の預金債権の差押えの効力を否定する理由はない。同高決も「社会通念及び現在の銀行実務に照らすと」という前提を置いており,将来の状況の変化によってはこの種差押命令の申立でも差押債権の特定が認められ得ることを否定する趣旨ではないと考えられる。
 本件のような申立は抽象的な理由で排斥されることが多いが,それは預金債権差押命令手続の実効性を裁判所が率先して奪うに等しく,民事執行手続が時代に即したものとして奏功可能性を高めていくことを不当に害することになるとの非難を向けざるを得ない。銀行から執行抗告がなされたときにはじめて,銀行に具体的主張立証をさせたうえで裁判所が判断するのが正しいありようであると思われる。
 本件各決定例を契機として持続的に議論・工夫がなされることを期待したい。
 なお,法制審議会民法(債権関係)部会第18回会議議事録によれば,この点に正しい注意が払われており,新たに提起したこの問題点について研究者から一定の共感が得られていることをうれしく思う。

(3)生命保険解約返戻金請求権等の差押えにおける保険証券番号の特定の要否
 生命保険解約返戻金請求権等の差押えにおいては,従前,保険証券番号の特定が必要であるとされ,これを欠くときには不適法な申立てとして却下されていた。しかしながら,債務者と第三債務者の間にいかなる保険契約が存在するのか,存在するとしてその保険契約に係る証券番号その他の詳細は通常は債権者に知りうるものではないから,証券番号の特定を求めるときには,価値その他の観点から差押えの現実的な対象となりうる保険解約返戻金等が,事実上の差押不能財産となってしまうことになる。
 そもそも,保険契約は,長期間継続することが一般的であり,契約期間中に契約者自身が証書を紛失することもあれば,病気や事故で記憶や判断力が失われることもあるし,死亡することも契約の性質上当然に想定される。保険会社は,日常的に保険契約を特定する作業をせざるをえない業態であり,その業務においては氏名,住所,生年月日から保険契約を検索探知しているのである。
 また,「終身保険,定期保険のほか,年金保険,医療保険及び学資保険等の多数の種別」は,法律によって定められているものではない。法律上,保険の種類は,保険法による生命保険,損害保険,傷害疾病定額保険の3種類の区別しかないが,各保険会社は,様々な保険商品を開発しており,その名称も,個々の保険会社が自由に名付け,同様の内容の保険でも会社によって,また同じ会社でも時期によって名称が変更されることがある。「契約の種別」は個々の保険会社が開発した商品の商品名にすぎないのである。
 弁護士法23条の2に基づく照会(23条照会)への現実の対応状況も預金債権についての銀行のそれとは全く異なっている。すなわち,簡易生命保険を含む生命保険の全てについてその詳細を調査するための23条照会は,氏名及び生年月日と住所地(及び旧住所地)が特定されていさえすれば原則として回答がなされる運用になっており,23条照会のマニュアルなどのいずれにも,必ず,生命保険協会への一括照会の書式が載っていて,生命保険協会自身も弁護士会宛てに同協会に照会して欲しい旨文書で要請しているところであり,生命保険会社にとって照会に回答することは日常業務となっているのであって,この点で預金口座の照会が定型的に行われていない預金の取扱支店の限定の問題とは,全く状況を異にするのである。このこと自体が,すでに,保険会社において契約者の氏名・生年月日及び住所地さえ明らかになれば保険契約を探知・特定することが容易にできることを示している。
 これらの問題意識を持ってした申立てについて,東京高決平成22年9月8日金商1354号38頁・金法1913号92頁・消費者法ニュース86号287頁・判タ1337号271頁・判時2099号25頁は,大要,以下のとおり判示して証券番号の特定を不要とした。
 「(生命保険解約返戻金等を差押債権とする場合の)特定は,本来保険証券番号を特定することによって行うことが望ましいが,弁護士法23条の2に基づく照会にもかかわらず,第三債務者において保険証券番号を回答しないという場合にまで,保険証券番号の特定を求めることは相当とはいえない。このような観点から第三債務者において,多数の保険契約の類型や種類を通じてその契約年月日の先後を調査し特定することができるかを検討すると,@契約が古い順との記載がある場合には保険の種類を問わず全ての保険契約を調査対象として差押命令に対応すると回答する保険会社があること,A契約者の氏名,住所,生年月日及び性別のみを特定した23条照会に47社中43社が契約の有無等を回答していること,B複数の同旨発令例があり,これらに対して保険会社から不服申立手続が採られていないことから,これを肯定するべきである。解約返戻金請求権は将来債権であり差押の効果が及ぶ範囲の判断は差押時点においてせざるをえないが,これを理由に特定がないということはできない。」
 保険解約返戻金等についてのこの問題は,上記東京高決を受けて,東京地裁の執行センターでも,証券番号を特定しなくとも差押命令を発するというように実務が変更されたようであり,今後その定着が待たれる。

 以上
重要関連PDF
東京高等裁判所平成22年9月29日判決・先物取引被害全国研究会編「詐欺的金融商品取引業者からの現実的な被害回復に向けて」(以下,「先全研被害回復」)11頁・判例時報2105号11頁
東京高裁平成23年3月30日決定・金融・商事判例1365号40頁・金融法務事情1922号92頁
東京高裁平成22年9月8日決定・金融・商事判例1354号38頁・金融法務事情1913号92頁・消費者法ニュース86号287頁・先全研被害回復99頁・判例タイムズ1337号271頁・判例時報2099号25頁
奈良地方裁判所平成21年3月5日決定・消費者法ニュース79号200頁・330頁・被害回復151頁
高松地方裁判所観音寺支部平成21年3月25日決定・消費者法ニュース80号347頁・被害回復155頁
以上
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