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※下記の議論は現在のFX取引に妥当するものではなく、平成17年7月1日以前の取引に関する議論である。
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1.外国為替証拠金取引のしくみ等
2.賭博該当性(賭博行為としての反公序良俗性)
3.投機的取引に関する既存の法令等との関係
4.その他、外国為替証拠金取引の反公序良俗性を基礎付ける事情
5.外国為替証拠金取引における「適合性原則」の変容可能性
6.取引業者、ないしその従業員の説明義務
7.両建ての違法性
8.その他の違法行為類型
9.受任後の事件処理
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1 「外国為替証拠金取引」の基本的な内容
「外国為替証拠金取引」の基本的な内容は、以下のとおりであるようである。すなわち、顧客は、取扱業者に対して一定単位(1万単位とするものが多い。)の外国通貨を1取引単位とする最低取引単位あたり、5万円ないし10万円程度の「証拠金」を支払って一定単位の外国通貨を売買したと同様の(差金決済を行う)地位を取得し、任意の時点で当該地位(ポジション)と反対の取引をすることによって生ずる観念上の為替差損益について差金の授受を行う。また、顧客が、右「取引」にかかる2通貨のうち、低金利通貨を売って高金利通貨を買ったと仮定する差金決済契約上の地位を取得している場合(高金利通貨の買玉のポジションを維持している場合)には、取扱業者から、2通貨の金利差を指標として決定される「スワップ金利」と呼ぶ金員の支払いを受けることができ、その逆に、高金利通貨を売って低金利通貨を買ったと仮定する差金決済契約上の地位を取得している場合には、顧客は取扱業者に対して「スワップ金利」を支払わなければならない。
2 具体例
例えば、1取引単位を1万ドルとする取引において1ドル120円の時点で10単位の「ドル買い」を行い、1ドル110円の時点で「仕切った」とすれば、10円×10単位×1万倍(100万円)と手数料が「損失」となり、逆に1ドル130円の時点で仕切ったとすれば100万円から手数料を控除した金額が「利益」となる。
また、上記「ドル買い」の場合に、円の「金利」が年利0.1パーセント、ドルの「金利」が年2.1パーセントである場合には、10万ドル相当の円を「借りて」、同額のドルを「保有」していると仮定されることから、「金利差」の2パーセント相当、すなわち、年換算にして、10単位×120円×1万倍×2パーセント(24万円)が「スワップ金利」として支払われる。この場合に要する「証拠金」が5万円×10単位(50万円)であれば、年利48パーセントの「金利」ということになる。逆に、「ドル売り」の場合には、ドルを「借りて」、同額の円を「保有」していると仮定され、上記「スワップ金利」を支払うことになる。
なお、上記の「1ドル120円」とか、「2パーセントの金利差」などという「レート」は、取扱業者が決定することになっているが、顧客が「ドル買い」をする場合と「ドル売り」をする場合とでは、同一時点でも「レート」は、取扱業者の有利なように、異なったレートが適用されることになっている。
3 「外国為替証拠金取引」の法的性質
このように、「外国為替証拠金取引」における差金決済契約は、取扱業者が提示する為替レートを指標とする差金決済と、「外国為替証拠金取引取扱業者」が提示する「取引」にかかる2通貨の金利差を指標とする差金決済契約の複合であると言うことができる。
4 いわゆる「インターバンク市場」との関係等
「外国為替証拠金取引」において「為替変動を指標とする差金決済」を行うに際して用いられる「為替レート」及び、「金利差を指標とする差金決済」を行うに際して用いられる「スワップレート」は、インターバンク市場におけるこれらの数値を一応の基準として、取扱業者が決定するものとされている(通常、約諾書にその旨の記載がある)。
一般に「為替取引」は、インターバンク市場と呼ばれる、銀行間において電話や取引専用の通信回線を使用して行う取引の集合体の中で行われる。同「市場」においては、主として、最低取引単位を原則として 100万ドルとする現物取引が行われている(スポット取引)。
インターバンク市場では、100万ドル単位の取引が行なわれ、直物取引の場合でも、決裁は2営業日後に行う。したがって、決裁がなされないというリスクは常に伴うのであり、高度の信用がなければ取引に参加できない。これに参加するのは各国銀行のなかでも、特に巨大な資本を有する一流銀行に限定されざるを得ない。実際にインターバンク市場に参加して取引をしているのは、世界中の巨大銀行及び各国中央銀行(日本では日本銀行)となっている。
インターバンクレートが、TTレートと比較して極端にスプレッドが狭い(有利な取引である)のは、上記のような取引単位の大きさと、取引参加者の巨大な信用力を背景としているものだからである。インターバンク市場において取引を行い得ない取扱業者が、「外国為替証拠金取引」において「インターバンクレートを参考」にするというのは、要するに、同取引が「仮想」の取引であるからに他ならない。
5 小括
上記のとおり、「外国為替証拠金取引」は、顧客と取扱業者がそれぞれ互いに差金決済契約の当事者となって為替変動ないし金利差に基づく金銭の得喪を争う、相対(あいたい)取引である。この点で、証券取引や商品先物取引等の「受託」とは、その性質が全く異なる。
6 被害救済のための法的構成
被害救済のための法的構成としては、いわゆる一体的不法行為構成のほか、公序良俗違反無効、錯誤無効、詐欺取消、消費者契約法による取消が考えられる。これらを選択的にすることが望ましいのではないか。
なお、客観的取引履歴は、通常の商品先物取引分析ソフトを用いてなしうる(スワップの授受を「取引所税」欄にプラスマイナスを逆転させて入力すればよいのではないか)。
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1 賭博罪の構成要件該当性
このような「外国為替証拠金取引」は、為替相場等の変動という偶然の事情によって財物の得喪を争う行為であって、刑法上の(単純)賭博罪、常習賭博罪、賭博場等開帳図利罪に該当する。
そして、賭博罪該当行為は、法令による違法性阻却によって、はじめて法令行為(刑法35条)として適法となるものであるとするのが判例である。
学説も、以下のとおりである。
「取引所有価証券市場によらないで、取引所有価証券市場の相場により差金の授受を目的とする行為を行うことを禁止したものである。本条(注:証券取引法201条)は、差金授受を目的とする取引は一種の賭博であり、同様の行為が取引所有価証券市場内で行われる限りにおいて合法であるが、取引所有価証券市場外で行う場合に違法とすることを明確にするため設けられた。」(河本一郎、関要「逐条解説証券取引法」商事法務1124頁)。
「(投機取引は)一定のルールに従って公正に行なわさせるため、法律が限定的にこれを認めているのである。したがって、この枠外にあるものは民法九〇条の「公序良俗」に反すると、いわねばなるまい。」(石田喜久夫「金先物取引の法的問題点」法律時報55巻2号68頁)。
なお、相場による差金決済の禁止に関する諸規定は、差金決済取引が賭博行為であることを当然の前提にしているものといえる。
2 法令による違法性阻却の欠如
「外国為替証拠金取引」には、その違法性を阻却する法令は存在しない。
為替変動を指標とする証拠金取引が誕生したのは、平成10年に外国為替及び外国貿易法(以下、「外為法」という。なお、改正前は外国為替及び外国貿易管理法。)が改正され、外国為替業務が自由化されたこと(為銀主義の放棄)を発端としている。しかし、為銀主義の放棄は、為替取引を自由化するものではあるものの、為替変動を指標とする賭博行為を許容するものでは決してない。「為替取引の自由化」が、外為証拠金取引の自由化を意味するという考え方は、私人間での売買が許されるあらゆる商品ないしサービスについて、その価格変動を指標とする差金決済契約の全てが許容されるとすることと同義であって、到底許容しうるものではない。仮にこれを許容するとすれば、「価格」が「変動」し、差金決済(つまりは賭博)の対象となりうる商品及びサービス、つまり、「価格」のある「モノ」全てを対象とする賭博行為を容認することになり、例えば、卸売市場における日々の「高値」を指標とする「タコ証拠金取引」や、「イチゴ証拠金取引」がごとき賭博行為を容認することに他ならない(日刊新聞紙の「卸売市場」欄には、「賭博」の指標となりうる「価格」が列記されている。)。このような結果が常識的でないことは極めて明らかである。「為替」が、「何となくその変動を指標とする差金決済取引がまっとうな金融商品であるかのように錯覚させるモノ」であることは素直に首肯しうるが、このような「錯覚」は「外国為替証拠金取引」の本質を見誤らせる危険が大きい。為替変動を指標とする差金決済取引は、「外国為替証拠金取引」とは異なるものとして、すでに適法に存在する(後述)。このことと、「外国為替証拠金取引」が賭博であることとは、全く矛盾しない。
ところで、このように、「取引の自由化」を奇貨として差金決済取引が任意に創出された実例としては、金地金等の私設市場における被害がある。昨今の「外国為替証拠金取引」の蔓延は、昭和48年にわが国で金の輸入が自由化されたことを契機として金の私設市場が全国各地に萌芽し、昭和50年代に入ってから、このような私設市場を舞台とした先物取引被害が全国的に拡大した状況に極めて近似している。なお、私設市場における被害については、(主たる論点は取引所法8条との関係であった。後で触れる。)法律構成は異なるものの、いずれも、顧客が業者に交付した預託金ないし予約金の全額について顧客の返還請求が認められている(石黒一憲「私設の商品取引市場における金の先物取引と公序良俗」ジュリスト823号105頁に裁判例の掲記がある。)。
なお、平成16年4月1日から施行される金融商品販売法施行令により、「外国為替証拠金取引」について、業法の規定に基づかないで業者が取扱う場合についても、金融商品販売法の対象とされることになり、また、商取法施行規則により、商品取引員の行うこの種取引について、「特定業務」として届出をしなければならないとの改正がされることになっている。しかし、これら施行令、施行規則は、「外国為替証拠金取引」の適法性を基礎付け、あるいは賭博としての違法性を阻却するものでは全くない。被害の拡大に対処すべき緊急の要請から、暫定的に、いわば「説明義務のある賭博」、「届出義務のある賭博」を認めたものと評価されるべきものである。このことは、金融庁が、「この法律が、取扱業者に当該取引を行えることを認めるものではありません(いわゆる『お墨付き』を与えるものではありません。)。仮に、取扱業者が『金融商品販売法により許認可等を受けたものである。』とか、『政府や金融庁により認められた取引である。』といったようなことを言うことは誤りです。」とし、経済産業省・農林水産省も、「特定業務の対象とすることが、商品取引員に外国為替証拠金取引を行えることを認めることになるものではなく、また、刑法上の賭博罪との関係で、その行為の違法性が阻却されるか否かに影響を与えるものではありません」とする見解をそれぞれ示していることからも明らかである(行政がこのような見解を示すこと自体、異例のことである。金融庁ホームページ「いわゆる外国為替証拠金取引について―取引者への注意喚起等―」、農林水産省・経済産業省ホームページ「『外国為替証拠金取引を商品取引所法の特定業務とするための商品取引所法施行規則第31条の改正(案)』に関する意見募集の結果について」)。
3 違法性阻却を基礎付ける社会的経済的意義の欠如
なお、賭博行為該当行為は、法令による違法性の阻却ではじめて適法な行為となりうるものであることは判例学説が異論なく承認することころであり、万一そうでなくても、法令による違法性の阻却は、行為(取引)が社会的相当性を有することの極めて有力な兆表であることは疑いないであろう。ただ、「外国為替証拠金取引」が、まだ新しい商法であることからすれば、違法性を阻却する法令がなくても、社会通念上、正当と認められる業務上の行為であるとして、正当業務行為(刑法35条後段)としてその違法性が阻却されるとの主張は、一般論として、ありえないではないとも考えられ、また、「外国為替証拠金取引」の反公序良俗性は、その社会的経済的合理性・存在意義の欠如によってより強固に基礎付けられるものと考えられる。そこで、以下、「外国為替証拠金取引」の賭博罪該当性(及び違法性阻却の欠如)を、形式的に賭博罪の構成要件に該当するものでありながら適法とされている、他の金融商品と比較して検討してみることにする。
(1)商品先物取引
商品先物取引は、証拠金取引であると言う点等において「外国為替証拠金取引」と極めて近似するが、商品先物取引には、価格発見機能、先行経済指標の提供機能、価格平準化機能、リスクヘッジの利便を提供する機能等があり、これらは、経済的に合理性のある存在意義であると認められることから、商取法によって、その規制に従って行われるものについては違法性を阻却され、適法な取引であるとされている(それゆえのみ行為や相場による差金の授受は賭博として禁じられているのである。この点については後で詳論する。)。
(2)生命保険
賭博と適法な金融商品との分水嶺を探るのに当たって示唆に富むのが、生命保険の歴史である。生命保険取引は、損害保険とは異なり、発生した損害とは直接的な関連性なくして定額の保険金を授受するものであることから、賭博に転化しやすい取引であると言われている。現に、生命保険の発祥した16世紀のヨーロッパでは、皇帝や王の死亡に金銭を賭ける行為が横行し、18世紀後半ころまで、生命保険自体が禁止されていたようである。これが適正な金融商品として発展するようになったのは、18世紀末のイギリスで「適正な保険利益」を条件として認められるようになったことにはじまる、とされている(今井薫「他人の生命の保険」金融・商事判例986号)。ここで「適正な保険利益」とは、被扶養者が扶養者が死亡した場合に保険金を受け取るというように、被保険者と受取人との間に正当な利害関係が存在することをいう。現行法では、賭博への転化を防止するために同意主義(商法674条1項。他に立法例として親族主義などがある。)を採用しており(なお、旧商法678条1項は「保険利益」を要求していた(利益主義))、いずれにせよ、全く無関係な人間が、知らないうちに、他人の生命に金銭の得喪を賭ける行為は、賭博であって許されない。つまり、正当な社会的意義が存在する場合に始めて適正な金融商品たりうるのである。
(3)天候デリバティブ
天候デリバティブは、新しい「金融商品」であるという点で「外国為替証拠金取引」に共通する。天候デリバティブとは、事業者が保険会社に手数料を支払うことの対価として、一定の気候条件の変動があった場合にその程度に応じて金銭の支払い(補償金)を受けるという取引であり、事業者が一定の気候条件を前提として収益を期待している場合に、予期せぬ天候の変動によって収益が大幅に減少してしまうリスクを転化するための保険機能という経済的合理性を有することから、保険業法98条1項8号(金融等デリバティブ取引についての規定)、同法施行規則52条3項6号(クレジットデリバティブについての規定)、平成10年10月30日国税庁通達(クレジットデリバティブの定義についてのもの)によって違法性を阻却されている(土方薫ほか「天候デリバティブ」シグマベイスキャピタル)。
このように、賭博該当行為が適法なものとして存在するためには、正当な社会的経済的合理性・存在意義が認められ、法令によって違法性を阻却されなければならない。そして、形式的には法令の規定が存在しても、実質的に社会的相当性を欠く場合には、なお賭博行為としての違法性を有する。
「新たな金融商品」(「外国為替証拠金取引」は金融商品に藉口した詐欺商法であるものが多いが。)については、以下のような指摘があるところである。
「たとえば、証券取引法201条2項1号により同条1項の適用が除外されている取引主体である銀行が、マーケット・レベルと比べて極端にレバレッジの高い有価証券店頭デリバティブ取引を行なったような場合に、刑法185条(単純賭博罪)又は刑法186条(常習賭博罪、賭博場開帳等図利罪)の適用の余地が残っていることは否定できないのではないか。今回の府省令が列挙するデリバティブ取引は、できる限り取引の内容を具体的に記載しようという意図に基づき起案されているように読めるが、これも賭博罪に対する配慮からであるともいわれている。つまり上記のような「問題ある取引」はそもそも府省令が列挙する行為類型に該当せず、その結果、銀行が携わるデリバティブ取引には該当しないというアプローチである。「ギャンブル資本主義」だの「カジノ資本主義」だのという批判がデリバティブ取引に対して投げかけられているが、賭博罪成立の可能性を完全に排除してしまうことは金融システム改革法のもとでも困難である。」(小澤有紀子ほか「金融システム改革法下のデリバティブ取引(1)銀行編」金融法務事情1539号19頁)。
「少なくともその商品を利用することが、企業にとって何らかのリスクヘッジとなるという取引上の必然性が最低限具備されなければならないであろう。」、「保険リスクを対象にしたマネーゲームをやみくもに助長させることがあってはならない。」(土方薫ほか「天候デリバティブ」シグマベイスキャピタル)。
「外国為替証拠金取引」には、商品取引や金融デリバティブに認められうる経済的存在意義は何ら認められない。外貨預金その他の外貨建て資産を有する者や輸出入業者等、為替変動リスクを有する者にこれをヘッジする手段を与えることができるということが言われるかも知れない。しかし、こうした為替変動リスクをヘッジする手段は、すでに用意されている。銀行を通じてする先物為替予約等の取引等がそれであるし(古海健一「ビジネスゼミナール外国為替入門」日本経済新聞社215頁)、「外国為替証拠金取引」に近似する通貨先物取引は、これに適合する者であれば、整備された取引所(東京金融先物取引所)において公正に形成された価格で、(クリアリングハウスを通じて)取引の相手方の信用リスクを負担することなく(制度上は)行いうるのである(なお、通貨先物取引との関係については後に詳述する。)。同取引所において通貨先物オプション取引を行えば、よりローコストでリスクヘッジをすることも可能である。価格が公正であることの保障もなく、大きな信用リスクを負担してする「外国為替証拠金取引」には、何らの経済的存在価値もない。そして、何よりも、「外国為替証拠金取引」は、そのようなリスクヘッジの必要性のない者を対象として勧誘がなされているのであって、投機的利益の授受をする以外に、ヘッジの手段として用いられてはいない。仮に適法な金融商品であってもヘッジの目的のない者がする場合には賭博としての違法性が阻却されるものでないことは上記のとおりである。圧倒的多数の顧客には外貨預金等外貨建て金融資産はなく(豪ドルやスイスフランの資産を持つ顧客はほとんどいない)、為替変動リスクをヘッジするために取引を行うことなど、当初から予定されてはいない。
また、「為替変動による効率的な利得の可能性」、「投機対象選択可能性の拡大」を以ってこれであるというのであれば、そのような考え方は到底許容されえない。「投機的利益の追求」が、賭博罪構成要件該当行為の違法性を阻却するものでないことは当然である。違法な賭博行為であっても、これによる利益の追求という効用はあるのであり、賭博の禁止は、このような効用を、賭博の効用として、正当な経済的効用とは認めない趣旨であることはいうまでもない。
4 裁判例
この種取引の損害賠償請求事案としては、私の知る限り(平成16年3月末日現在)、4件の地裁判決、3件の高裁判決があるが、いずれも取扱業者に全額の賠償を命じ、過失相殺規定の適用をしたものはなく、うち2件は、以下のとおり、この種取引を「賭博」であるとしている。なお、上記の裁判例は、国内公設の商品取引所において商品先物取引等の受託を行う主務省の登録免許を有する商品取引員の行ったものについてのものである。
「外国為替取引の実行がない場合には、外国為替証拠金取引と称する取引が、実際には外国為替相場における通貨の交換価値を指標とする賭博行為に過ぎないものであることになる。(中略)外国為替取引の実行のない外国為替証拠金取引の場合には、顧客が利益を得れば(勝てば)外国為替証拠金取引取扱業者が損失を被り(負け)、顧客が損失を被れば(負ければ)外国為替証拠金取引取扱業者が利益を得る(勝つ)という関係が成立することになる。」(札幌地判平成15年5月16日)。
「為替相場の変動という偶然の事情を指標として、金銭の授受(差金の決済)を行うことのみを内容とする本件取引は、賭博行為といわざるを得ない。したがって、取扱業者外務員が、原告に対し、そのような内容の本件取引の勧誘をしたことは、不法行為に該当するといえる。」(札幌地判平成15年6月27日)。
5 賭博であることの効果
賭博行為は、民法90条にいう公序良俗に反するものの典型例として挙げられるものである。賭博行為が民法90条にいう公序良俗に反するものであり、無効であるということは、当然である。 |
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1 「外国為替証拠金取引」が金融先物取引ないしこれに近似の「取引」であること
適法な差金決済取引としては、証券等の信用取引や商品等先物取引が代表的なものであるが、現行法上、為替変動ないし2通貨間の金利差を指標とする差金決済取引としては、金融先物取引法(以下、「金先法」という。)に基づいて行われる金融先物取引と、金融システム改革のための関係法律の整備等に関する法律(以下、「金融システム改革法」という。)の下で改正された平成10年改正銀行法に基づき、銀行がその業務に付随する業務として行なうことができることが明示的に認められたデリバティブ取引、平成10年改正証券取引法(以下、証券取引法を、「証取法」という。)により証券会社が内閣総理大臣への届出のうえ営むことができるとされることになった金融デリバティブ取引がある。銀行、証券会社が行いうるとされた金融デリバティブには、「外国為替証拠金取引」に類似するものとして、「直物為替先渡取引」と「スワップ取引」がある。前者は、「当事者間において、あらかじめ元本として定めた金額について決済日を受渡日として行った先物外国為替取引を決済日における直物外国為替取引で反対売買したときの差金の授受を約する取引その他これに類似する取引」と定義され(銀行法10条2項14号、銀行法施行規則13条の2第1項3号、証取法34条2項5号、証券会社に関する内閣府令(平成10年11月24日総理府・大蔵省令32号)24条3項)、後者は「当事者が元本及び金利として定めた外貨額について当該当事者間で取り決めた為替相場に基づき金銭の支払を相互に約する取引、当事者が元本として定めた金額について当該当事者間のそれぞれが相手方と取り決めた利率に基づき金銭の支払を相互に約する取引その他これに類似する取引」と定義されるものである(銀行法10条2項14号、銀行法施行規則13条の2第1項7号、証取法34条2項5号、証券会社に関する内閣府令24条6項)。金融庁は、この種外国為替証拠金取引は、直物為替先渡取引に該たると考えているようである。しかし、そもそも(独立系ないし商品取引員系)取扱業者は、銀行ないし証券会社ではない。
金融先物取引とは、「一定の基準及び方法により行われる」、「1 当事者が将来の一定の時期において通貨等及びその対価の授受を約する売買取引であって、当該売買の目的となっている通貨等の転売又は買戻しをしたときは差金の授受によって決済することができる取引 2 当事者があらかじめ金融指標(注:通貨の価格、利率又はこれらに基づいて算出した数値。金先法2条3項)の数値として約定する数値と将来の一定の時期における現実の当該金融指標の数値の差に基づいて算出される金銭の授受を約する取引 3(略、金融オプション取引)」である(金先法2条4項)。
「外国為替証拠金取引」は、通貨価格の差額と2通貨間の金利差を指標としてする差金決済可能な取引であるから、上記金先法2条4項1号の金融先物取引と異なるのは、差金決済の指標とする対象が「将来」の通貨(等)ではなく、現在存在する通貨(等)であるという点のみである。
しかし、このような差金決済指標の対象の「現在性」は、取引が先物取引であるか否かに影響を与えるものではなく、「差金決済可能性」を捉えて、これを、「先物取引」であるとするのが判例学説である。
この点については、かつて蔓延した金地金やプラチナ、パラジウム等の私設市場における「予約取引」、「延べ取引」、「延べ勘定取引」、「現物条件付保証取引」等と称する「取引」が当然に(違法なものではあるが)「先物取引」であるとされていたことをみればよく分かる。これらは、金地金等(取引時点で現在する)及びその代金について、これらの授受をすることなく「証拠金」ないし「保証金」を差し入れて「売買」をし、将来の一定時期にこれらの現実の授受をせずに反対売買をして差金のみの授受をすることができる、というものであり、商取法2条4項が、「『先物取引』とは、売買の当事者が商品取引所が定める基準及び方法に従い、将来の一定の時期において、当該売買の目的物となっている商品及びその対価を現に授受するように制約される取引であって、現に当該商品の転売又は買戻をしたときは、差金の授受によって決済することができるものをいう」と規定していたこととの関係が問題となったが、判例・学説は、ほぼ異論なくこれを「先物取引」であるとしている。すなわち、名古屋地判昭和60年4月26日判タ608号111頁、金融商事判例722号28頁は、「現物条件付保証取引」について、詳細に認定した上、「『現物条件付保証取引』の実質が先物取引であることは明らかである。(中略)本件取引が現物の授受を前提とした現物取引ないし延勘定取引であると主張するのはいささか強弁ではなかろうか。」として現物取引であって先物取引でないとの業者の主張を退け、学説も、「現物条件付保証取引の実質が先物取引であることは明らかである。」などとしている(堀口亘「商品取引所法8条2項に違反する商品先物取引の効力」金融・商事判例736号48頁)。
今野勉「取引所類似施設について」大隈先生古希記念・企業法の研究、有斐閣は、類似施設開設の禁止に関する記載であるが、「先物取引」の捉え方について示唆に富むので引用する(なお、「外国為替証拠金取引」と類似施設開設の禁止規定の関係については後に詳述する。)。
「法律が商品市場外において先物取引をする商品市場に類似の売買を禁止するのは、売買が典型的であるからというのではなく、差金を授受して売買関係より離脱することのできる点にある。思うに当事者は差金を授受するのみでその売買関係より離脱することのできる可能性を有するときは、必ずしもあとになって現物を授受することによって売買関係を履行する必要がなく、差金決済をすることにより売買関係より離脱することができるので、さかんに投機を試みることができ、ついには不健全取引をかもし出す恐れもでてくる。このような売買、すなわち差金決済により売買関係より離脱することのできる可能性の有する売買は、厳重な法規制の有する取引所においてのみ認められ、それ以外の場合にはこの売買を禁止する必要があるからである。先物取引の特徴は右のごとくであるから、これに類似の売買とは、先物取引をする商品市場における売買と、当該売買より離脱する場合の法律上の形式を異にするけれども、少なくとも売買の当初において差金授受をすることにより、当該売買より離脱することのできる可能性の存在する場合をいうものと解釈するのが至当である。もしその可能性が売買の当時に存在しないで、当該売買より離脱するためには、そのときになってはじめて関係当事者の明示または黙示の合意を必要とするという売買ならば、このような投機売買は一般の投機売買(商501条)にくらべ、なんら特別の危険性を有しないし、したがってこれを禁止しなければならない何等の理由も存在しないのである。このように類似の売買とは、売買のときにおいて差金を授受することによって、当該売買関係より離脱することのできる可能性が存在すればよいのであるから、たとえ始めから、このような合意が存在しなくても、事実上差金の授受によって当該売買関係より離脱することのできる可能性が多い売買という場合には、当事者はまたこれを予期して投機取引をすることも考えられるので、このような売買も類似の売買といわなければならない。何となれば、商品取引所法2条4項にいう先物取引とは、始めより差金を授受することによって、この売買関係より離脱することのできる可能性のある売買であるから、これに準ずる取引についても法律上離脱の形式が異なる場合において、この可能性の程度においてこれに準ずる売買もこれに該当する取引であるということになる。」。
以上のとおりであって、「外国為替証拠金取引」は、金先法2条4項1号に言う、「金融先物取引」である。
なお、「外国為替証拠金取引」は、直物為替先渡取引に該当するとの考え方が示されることがある。金融庁もこのような考え方を採っている。しかし、直物為替先渡取引と、上記金先法2条4項2号の金融先物取引とは、法律の規定からすれば、同一のものであるとみてよいと考えられる。すなわち、金融商品販売法2条1項12号は、同法に言う「金融商品の販売」に該たるものとして、「金利、通貨の価格その他の指標の数値としてあらかじめ当事者間で約定された数値と将来の一定時期における現実の当該指標の数値の差に基づいて算出される金銭の授受を約する取引であって政令で定めるもの又は当該取引の取次ぎ」を挙げ、これを受けた金融商品販売法施行令4条は、上記銀行法、証券取引法の規定をこれに該当するものとしているが、金融商品販売法の上記規定は、上記金先法2条4項2号(当事者があらかじめ金融指標(注:通貨の価格、利率又はこれらに基づいて算出した数値。金先法2条3項)の数値として約定する数値と将来の一定の時期における現実の当該金融指標の数値の差に基づいて算出される金銭の授受を約する取引)と同一のものである。そうすると、この種外国為替証拠金取引は、金先法2条4項2号にいう金融先物取引であるということになる。
結局、金先法2条4項1号のそれであるか、同2号のそれであるかはともかくとして、「外国為替証拠金取引」は、金先法にいう、金融先物取引であると見る余地は十分にある。
また、万一「外国為替証拠金取引」が(金融)先物取引でないとしても、「外国為替証拠金取引」が、差金決済取引であることは明らかであるから、同じく差金決済取引である先物取引等に関する規制の趣旨が及ぼされるべきは当然である(なお、金先法1条は、委託者の保護を1つの大きな目的として掲げている。)。
そこで、以下、「外国為替証拠金取引」が、金融先物取引法の複数の規定に著しく反すること、及び、先物取引等現行法上適法に存在する差金決済契約についての規制の趣旨に著しく反することを摘示して、「外国為替証拠金取引」の反公序良俗性を論ずる。
2 類似施設開設の禁止
(1)法令等
商取法8条は、「商品市場類似施設の開設の禁止」と題し、「何人も、商品または商品指数(これに類似する指数を含む。)について先物取引に類似する取引をするための施設(証券取引法(昭和23年法律第25号)第2条第12項に規定する有価証券市場及び金融先物取引法(昭和63年法律第77号)第2条第6項に規定する金融先物市場を除く。)を開設してはならない。2 何人も、前項の施設において先物取引に類似する取引をしてはならない。」と規定している(類似施設開設者には3年以下の懲役、300万円以下の罰金、あるいは双方が併科される。商取法152条の2第1号)。なお、同条は、同条に関する議論を踏まえ、平成2年改正法により規制の範囲を大きく変えている(@開設を禁止されるのが、改正前は「先物取引をする商品市場に類似する施設」であったが、現行法は「商品又は商品指数(これに類似する指数を含む。)について先物取引に類似する取引をするための施設」とする。a.何に似るかが、商品市場から先物取引に変わった。b.「商品」の定義が拡大されたので(2条2項)、仮に本条の適用範囲を指定商品に限るとしても、その範囲は著しく広がった。c.商品先物取引に類似する取引をする施設だけでなく、商品指数および商品指数類似の先物取引に類似する取引をする施設も、禁止の対象に加えられた。A有価証券市場の除外に加え、金融先物市場の除外を明定した。B類似施設において禁止される行為が、「売買」から「先物取引に類似する取引」に変わった。)。
証取法には、上記に近い規定として、同法87条の2(「証券取引所は、取引所有価証券市場の開設及びこれに付帯する業務のほか、他の業務を営むことができない。」)がある。
旧金先法6条は、「何人も、金融先物市場に類似する施設を開設してはならない。2 何人も、前項の施設において金融先物取引と類似の取引をしてはならない。」と規定して、金融先物取引市場類似施設の開設とそこにおける取引を禁じていた。同条は、金融システム改革法の下で、その趣旨に合致するよう、「金融先物市場は、内閣総理大臣の免許を受けた者でなければ、開設してはならない。」(金先法3条。違反者には3年以下の懲役、300万円以下の罰金、あるいは双方が併科される。金先法94条の21号)、(「無免許開設金融先物市場における取引の禁止」と題して)「何人も、第3条の規定に違反して開設される金融先物市場において金融先物取引をしてはならない。」(金先法44条の2)として、商取法及び証取法と異なる規制態様となっているが、金融システム改革法による影響を除いては、従前と同旨である。
(2)趣旨
これらの「類似施設開設の禁止」の趣旨は、差金決済取引が無秩序に行われることによる弊害の防止、すなわち、射幸心の助長、委託者保護の欠如、投機資金が取引所外取引に分散することによる取引所における公正価格形成機能の阻害等の防止にある。
学説も、以下のように言う。
「取引秩序の維持というのは、取引所市場における取引は、当局および取引所による規制を受けて秩序が保たれるのに対し、場外の取引にはそうした規制は及ばないため、無秩序に流れることが懸念され、それを防止するということである。先物取引は差金決済による売買関係からの離脱が可能で、過当な投機や不健全な取引に至る危険が大きいため、厳重な法規制がそれを補う取引所においてのみ認め、その危険を制御する制度のないところでは禁止する必要があるという見解も同様の観点である。いずれにしても類似施設の開設禁止規制の本質をとらえるには、差金決済可能な取引が組織的・継続的に行われることによる弊害を考えることが必要である。まず、考えられるのは、射倖心の助長という観点である。取引所市場における売買取引に比べて規制の緩い形で、取引が、しかも先物取引に適さない商品についてまで行われると、投資に適さない薄資者にまで射倖心をあおる結果となり、徒らに投機取引を助長することになる。投機取引一般を規制する法律が現在ない状況の中でどこで行われるかも知れないこの種の取引を網羅的に、かつ、効果的に予防するには、取引所を許可制にして、監督の及ぶ取引所においてのみこの種の取引を認めることが効率的な規制の方法と考えられる。また、投機資金の取引所外取引への分散という点もあげうる。投機資金は、正規の先物取引ないしそれに類似する取引に限らず、あらゆる対象を求めて動くものであり、望ましくない形態の先物取引に多くの資金が集まると、許可を与えた本来の取引所における望ましい先物取引に流入する資金が減少することになる。ひいては、取引所取引にできるだけ多くの需要供給が統合され、公正な価格形成が果たされるという市場機能そのものが没却されかねない。規制のない継続的・組織的先物市場を認めることにつき、もっとも心配されるのは、委託者保護の欠如である。金融先物取引の利用者の範囲としては、競争的な価格形成が促進されるよう市場を幅広くかつ厚みのあるものとし、また投資機会の均等を確保する観点から、法人は言うに及ばず、個人を含めた広範囲のものとすることが望ましく、そのためには、そうした委託者から取引受託を受ける業者やその業務方法に関し、それ相応の規制が必要となる。取引所における先物取引については法律上、あるいは自主規制上に規制が存在するため問題ないが、取引所外取引をかりに認めると、その規制からはずされることになり、委託者保護について大きな問題が生ずる可能性が強い。」、「前述した類似施設の規制目的の主たる狙いが取引秩序の維持にあることや商品取引所法の立案担当者の立法意思を考慮した場合、商品取引所法8条については、商品取引所に上場されていない非指定商品についても、組織的・継続的先物取引を一般的に禁止したものと解すべきと思われる。この趣旨は金融先物取引法6条(注:旧)についても同様に解すべきである。」(関根攻、亀島千佳、藤田義治、堀裕「金融先物取引法解説」商事法務研究会)。
「取引所は、その開設する市場にでき得る限り大量の取引を包容することによって初めて真正な公定相場を決定することができるのであるが、取引所税は差金決済をなし得る取引にのみ課税されるのみならず、本法に基く取引所において取引するには、会員として法定の用件を充足した者でなければならないし、たとえ会員になっても会員信認金、仲買保証金、売買証拠金の預託あるいは取引所の経費の負担その他厳重な法定用件に縛られているので、自然場外で取引するようになりがちである。しかしながら、これを放任するにおいては、取引所取引に重大な打撃を与えるとともに、いたずらに投機心を誘発して不健全な投機取引を横行せしめ、両々相まって社会に非常な害毒を流すこととなるので、本法は場外における商品市場類似施設並びに当該類似施設における売買を厳禁し、本法違反者に対しては本法(注:商取法)の規定する最高の罰則(注:当時か)をもって臨むこととした。」(吉田信邦「逐条詳解新商品取引所法」日本経済新聞社40頁)。
なお、旧証取法191条(商取法8条と同旨のもの)も、「(商取法の)『先物取引をする商品市場』を『有価証券市場』によみかえるだけで、あとの解釈は同じである」(今野勉「取引所類似施設について」大隈先生古希記念・企業法の研究、有斐閣)。
(3)効果
商取法8条違反の私法上の効果については、主に、私設市場における金地金の先物取引の公序良俗違反性として論じられてきた。最高裁は、取引を公序良俗に違反するとした原審の判断を正当としているが(最判昭和61年5月29日)、商取法8条違反の効果についてはその判断を避けている。委託契約を無効とした下級審裁判例の全てが商取法8条違反を1つの論拠としており(ただし、商取法8条違反のみを以って公序良俗に違反するとするものではない)、学説には、「本条違反の先物取引の私法上の効力については、商品取引所法では旧取引所法以来判例・通説で私法上の効力も無効とされている」(関根攻、亀島千佳、藤田義治、堀裕「金融先物取引法解説」商事法務研究会)とされているとおり、商取法8条違反から直ちに契約の無効を導くべきであるとする見解も有力である。
その旨を言う学説として、以下のようなものがある。
「私設の市場においては、たとえ不当勧誘がなくても、価格形成が適正に行われる保障がないから、商品取引所法8条は私設の商品先物市場の開設を一般的に禁止していると解し、8条違反から直接に契約の無効を導く解釈が、委託者保護にとって適切であると思われる」(黒沼悦郎「非公設市場における金地金の先物取引と公序良俗」別冊ジュリスト新証券・商品取引判例百選)。
「私設市場における先物取引の委託契約は、公序良俗に反するかどうか判断するまでもなく、全て無効と解すべきであると考える。その理由は、第一に、正規の取引所における売買の取次の場合には、たとえ不当勧誘によって委託がなされたとしても、売買は適正な価格によって行われる制度的な保障があるのに対し、私設の市場においては、たとえ不当勧誘がなかったとしても、価格形成が適正に行われる保障がないから、両者を同列に論じることができないからである。市場が私設のものであり、価格形成と取引の公正を確保するための法規制が及ばないことから生じる危険から投資家を守るために、法8条は、私設の先物市場の開設を一般的に禁止しているのである。危険は、判旨が言うように、先物取引自体から必然的に生じるのではないが、私設の市場開設から必然的に生じるというべきである。理由の第二は、委託者が儲かっているときは契約の有効を主張し、損をしたときは無効を主張するという状況が、私設の商品先物市場においては、ほとんど成り立たないからである。まず、委託者は、利益があがっていると知ることが難しく、知った場合でも利益を受け取ることが難しい。悪質業者は無断売買をして損金が生じたことについて、利益の引渡しを拒むからである。また、業者が委託者に損金を請求した事件において、法8条違反の行為が直ちに私法上無効であるとはいえないとしつつ、違法行為に裁判所が加担することはあり得ないとして、損金の請求を棄却した判決(名古屋地判昭和60・4・26判時1163号89頁)がある。この判決は、委託者が損をした場合に契約の無効の主張を認めるのと、同じ結果をもたらすものである。第三に、これまでの裁判例からすると、説明義務違反も詐欺的勧誘も立証できていないとされるであろうX1・X3のような投資家を保護の外におくことは、実質的にみて不当である。たしかに、X1は、詐欺または錯誤を理由に契約を取り消すことができたかもしれないし、益金が生じていることが分かっていれば、契約の有効を主張した方が、事を有利に運べたであろう。しかし、X1・X3も、私設の先物市場で勝負して儲けようとは、夢にも思わなかったであろうから、原告らが、商品取引所法8条違反による契約の無効を主張することは、何ら不当なことではない。もっとも、後述のように、X1・X3に対し不法行為法による救済が与えられるとすれば、無効を主張する実益はあまりない。第四に、契約を無効と解しても法律関係は錯綜せず、第三者の利益を害することもない。なぜなら、売買契約と委託契約の双方を無効と解するのであるから、損金や益金はそもそも生じなかったことになり、預託金を返還させれば足りるからである。」(黒沼悦郎「私設市場における商品先物取引」ジュリスト904号115頁)。
「(商取法)8条違反の売買を行う者は、はじめから売買締結の意思が存在せず、純然たる差金決済取引を行うものも恐らくは存在するであろうから、これらの行為に対しては、たんに右の刑罰の制裁ある行為に止まらず、さらには民法90条により当然無効の売買としなければならない。」(今野勉「取引所類似施設について」大隈先生古希記念・企業法の研究、有斐閣)。
「(先物取引は賭博であるが法によって限定的に認められているものであるとしたうえ)商品取引所法の指定商品ではなかった金を、先物取引するのは公序良俗に違反し無効といわざるをえない。」(石田喜久夫「金先物取引の法的問題点」法律時報55巻2号68頁)。
(4)類似施設開設の禁止と「外国為替証拠金取引」
「外国為替証拠金取引」は、金融先物取引(少なくともこれに類似する取引)について、専ら取扱業者が取引の相手方となる(一人)私設市場を作出して行うものであって、金先法3条、同法44条の2に反する。そうでなくても、「外国為替証拠金取引」が、上記のような類似施設開設を禁止する上記各規定の趣旨に反して、これら規定が阻止しようとする上記各弊害を生じさせるものであることは明らかである。このことを以ってみても、「外国為替証拠金取引」は公序良俗に反する無効なものと言わなければならない。
3 相場による差金の授受の禁止
(1)法令等
商取法145条は、「相場によるとばく行為等の禁止」と題し、「何人も、商品市場における取引によらないで、商品市場における相場を利用して、差金を授受することを目的とする行為及び次に掲げる取引と類似の取引をしてはならない。1 第2条第6項第2号又は第3号に掲げる取引(注:同第2号は現物価格先物取引)2 第2条第6項第4号ロ又はハに掲げる取引に係る同号に掲げる取引」と規定している(違反者には1年以下の懲役、100万円以下の罰金、あるいは双方が併科される。商取法157条)。
証取法201条は、「相場による賭博行為等の罪」と題し、「取引所有価証券市場によらないで、取引所有価証券市場における相場(取引所有価証券市場における有価証券の価格に基づき算出される指数の数値を含む。)により差金の授受の目的とする行為をした者は、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する。ただし、刑法186条の規定の適用を妨げない。」と規定している。
旧金先法7条は、「何人も、金融先物市場によらないで、金融先物市場における相場により、差金の授受を目的とする行為及び次に掲げる取引と類似の取引をしてはならない。1 第2条第4項第2号に掲げる取引 2 第2条第4項第3号ロに掲げる取引に係る同号に掲げる取引」として、相場による差金の授受等を禁じていた。同条は、金融システム改革法の下で上記のとおり銀行及び証券会社に一定の要件の下でする金融デリバティブ取引を認めたことにより、商取法とは規制条文の態様が異なることになったが、「何人も、銀行、証券取引法第2条第9項に規定する証券会社その他の政令で定める者が一方の当事者となる場合を除き、店頭金融先物取引をしてはならない。」(金先法44条の3。違反者には1年以下の懲役、100万円以下の罰金、あるいは双方が併科される。金先法96条)、「この法律において『店頭金融先物取引』とは、「金融先物取引所の開設する金融先物市場によらないで、金融先物取引所の開設する金融先物取引市場の相場により、差金の授受を目的とする行為(等)をいう」(金先法2条5項)として、同旨が定められている。
(2)趣旨
差金決済取引が刑法上の賭博に当たることを前提にして、大規模に行われうるこの種「賭博」について刑の加重を行うものである。
学説は、以下のように言う。
「商品市場における取引によらないで、商品市場における相場を利用して差金を授受することを目的とする行為は、本来賭博であり、刑法185条、186条が適用される。しかし、この種の賭博は、普遍的かつ大規模に行われるから、刑法賭博罪より重くしてある。刑法185条では、50万円以下の罰金又は科料である。つまり、この種の行為を厳罰に処して、その取締りを励行する必要がある。また、投機取引の取引所集中の目的にも由来する、といわれる。常習犯については、さらに刑罰の重い刑法186条が適用される。このように、この種の行為は、本来賭博であるが、普通の賭博罪とは性質を異にするともいわれる。すなわち、この行為は、取引所においてこれをなす場合は適法の行為として許されており、ただ取引所によらないでこれをなす場合にのみ犯罪を構成する。偶然のゆえいにより財物を賭する投機的行為であることは、二者同様であるが、取引所によってこれをなせば適法であるのであるから、法律がこれを処罰すべきものとしているのは、単に賭博に相当するがためのみではなく、取引所によらないでこれをなすことが弊害ありとしているためであり、この点において、右犯罪は、普通の賭博罪と区別して考えなければならない、という者もある。判例も、次のようにいう。『32条の5前段所定の行為が賭博罪に該当する要件を具備するは明白にして、刑法186条の外取引所法32条の5を設けたるは、普通の場合に比し刑を加重するの必要に基づくものというべく、常習として犯す場合は刑法186条1項に該当すること当然にして、32条の5但書は単に注意的に右の趣旨を表明したものにすぎない。』という(大判昭和11年4月2日刑集15巻424頁)。旧取引所法32条ノ5と異なり、商品取引所法145条には、『但シ、刑法第186条ノ適用ヲ妨ゲズ。』という規定はない。しかし、右判例のいうように、取引所(商品市場における取引)によらないで、取引所の(商品市場における)相場により(相場を利用して)差金の授受を目的とする行為が本来賭博罪に該当するものであれば、右但書に該当する規定のない本条においても、これを常習として行えば、されに刑罰の重い刑法186条が適用されるのは当然のことであるということになる。平成2年の改正によって追加された、現行価格先物取引、商品指数先物取引およびこれらにかかるオプション取引(現物先物取引にかかるものも含む、後述)に類似する行為も、これらを商品市場における取引によらないで商品市場における相場を利用して行う場合は、いずれも、そのゆえい(勝ち負け)は取引所の変動という偶然によって決されるのであるから、同じく刑法上の性質は賭博というべきである。これについても、刑法186条は適用される。」(龍田節「逐条商品取引所法」商亊法務研究会1021頁)。
「取引所有価証券市場によらないで、取引所有価証券市場の相場により差金の授受を目的とする行為を行うことを禁止したものである。本条は、差金授受を目的とする取引は一種の賭博であり、同様の行為が取引所有価証券市場内で行われる限りにおいて合法であるが、取引所有価証券市場外で行う場合に違法とすることを明確にするため設けられた。」(河本一郎、関要「逐条解説証券取引法」商事法務1124頁)。
(3)効果
上記各規定に反する差金決済取引は、賭博であるから、当然に無効というべきである。
証取法では、差金の授受のみを目的とする株式売買行為は、賭博行為で、公序良俗に反するものであるから、無効である、とする判例があるようである(大阪簡裁昭和27年10月9日判決。関根攻、亀島千佳、藤田義治、堀裕「金融先物取引法解説」商事法務研究会)。
(4)相場による差金の授受の禁止と「外国為替証拠金取引」
「外国為替証拠金取引」は、「インターバンクレートを参考にした独自のレート」によって行われているものであり、厳密には、「金融先物取引市場における相場」による差金決済をするものではない。しかし、インターバンクの参加者は、金融先物取引の参加者でもあり、仮に2つのレートの間に不一致が生じた場合には、裁定取引(リスクなくして利益を得ようとする取引)が行われるから(古海健一「ビジネスゼミナール外国為替入門」日本経済新聞社269頁)、インターバンクレートと金融先物市場におけるレートは、ほとんど同一である(レートが異なれば、リスクなくして利益を得ることが可能になってしまう。)。したがって、「外国為替証拠金取引」は、金融先物取引市場における相場による差金の授受をするものというべきであり、金先法44条の3に反する。そうでなくても、相場による差金の授受を禁止する上記各規定の趣旨に反することは明らかである。この点からみても、「外国為替証拠金取引」は、違法な差金決済取引すなわち賭博であって、公序良俗に反する無効なものといわなければならない。
4 のみ行為禁止との関係
(1)法令等
商取法136条の16条は、「のみ行為の禁止」と題して、「商品取引員は、商品市場における取引の委託を受けたとき、又はその委託の取次ぎを引き受けたときは、その委託に係る商品市場における当該委託に係る申込みをせず、又は当該委託の取次ぎをしないで自己がその相手方となって取引を成立させてはならない。」と規定している(違反者には1年以下の懲役、100万円以下の罰金、あるいは双方が併科される。商取法155条5号)。
証取法129条は、「のみ行為の禁止」と題し、「取引所有価証券市場における売買の委託を受けた会員等又は会員等に対する売買の委託を媒介し、取次ぎし、若しくは代理することを引き受けた者は、取引所有価証券市場において売付け若しくは買付けをせず、又は会員等に対しその媒介、取次ぎ若しくは代理をしないで、自己がその相手方となって、売買を成立せしめてはならない。」(同条1項)と規定している(違反者には過怠金が課され、取引の停止若しくは除名がされる。同条3項)。
金先法73条は、「のみ行為の禁止」と題して、「金融先物取引業者は、金融先物取引等の委託を受けたとき、又は金融先物取引等の委託の媒介、取次ぎ若しくは代理を引き受けたときは、金融先物取引所の開設する金融先物市場若しくは海外金融先物市場において当該委託に係る申込みをせず、又は当該取次等をしないで、自己がその相手方となって取引を成立させてはならない。」と規定し、のみ行為を禁じている(違反者には6月以下の懲役、50万円以下の罰金、あるいは双方が併科される。金先法97条3号)。
(2)趣旨
上記各規定の趣旨は、委託者利益の保護と公正な価格決定の形成を阻害するのみ行為を禁止するところにある。
学説も、以下のようにいう。
「のみ行為によって、委託者の注文が市場に出されることなく、金融先物業者の手元において処理されてしまうと、この公正な価格の形成が妨げられることになるため、これを禁止しているのである。また、金融先物取引業者自身の経営の健全性を損なう可能性とともに、自己が相手方となって取引を成立させる場合、委託者と金融先物業者との間に利益相反が生じ、委託者が不利益を被る可能性も出てくる。前述のとおり、金融先物取引所の会員たる金融先物取引業者は、商法上の問屋あるいは準問屋と解されるが、商法上介入権を認められている(商法555条)にもかかわらず、ここで介入権の行使を禁じられているのである。委託者の犠牲において、金融先物取引業者が自己の利益を図ろうとするのを防ぎ、委託者の利益を保護するのが第2の目的といえよう。」(関根攻、亀島千佳、藤田義治、堀裕「金融先物取引法解説」商事法務研究会)
「(公正価格形成、市場集中を阻害することを「第1」とし、「第2」として)金融先物取引は極めて投機性の強い取引であるから、場外取引が無秩序に流れやすい点にかんがみれば、場外取引を許すときは投資家にとり極めて危険性の大きな取引と化してしまうことをあげることができよう。」(川村正幸「金融先物取引業」金融・商事判例806号167頁)
(3)効果
上記のみ行為禁止の趣旨からして、これに違反する取引の私法上の効果は、無効とすべきである(「本条違反の行為は私法上無効と解すべきである。」(川村正幸「金融先物取引業」金融・商事判例806号167頁))。
(4)のみ行為禁止規定と「外国為替証拠金取引」
「外国為替証拠金取引」は、取扱業者と顧客が契約の当事者となる相対取引であって、取引所や公正な価格形成がなされる市場での取引について「委託」等をするものではなく、上記各規定に言う「のみ行為」ではない。しかし、相対でする「外国為替証拠金取引」は、まさに、のみ行為を禁止する上記各規定が阻止しようとした弊害を生じさせるものであることは明らかである。これを取引の仕組み自体としている「外国為替証拠金取引」は、公序良俗に反し、無効というべきである。
なお、金先法73条は、「金融先物取引等」すなわち「金融先物取引所の開設する金融先物市場における金融先物取引又は金融先物取引所の開設する金融先物市場に類似する外国に所在する市場において行われる金融先物取引と類似の取引」(金先法2条9項)について定められている点に注意を要する。万一「外国為替証拠金取引」が、インターバンク市場その他の市場における売買を「委託」等するものであるとすれば、金先法73条に直接に違反することになる。
5 相対取引と向い玉規制等
(1)法令等
商取法施行規則46条2号は、「もっぱら投機的利益の追及を目的として、受託業務等に係る取引と対当させて、過大な数量の取引をすること」を禁じ、証取法39条は、「向かいのみの禁止」と題して、「証券会社は、有価証券に関する同一の売買又は同一の有価証券店頭デリバティブ取引について、その本人となると同時に、その相手方の取次ぎをするもの又は代理人となることができない」と規定している。
(2)趣旨
これらは、投機投資勧誘者が投資家と対当して取引を行って投資的投機的利益を追求すること(向い玉)は、顧客の損を前提にこれを自己の利益に取り込むことになり、利益相反行為、背信行為であって、商品取引員等が顧客に対して負う善管注意義務等に反することになるからである。
(3)裁判例
向い玉の違法性については、既に多くの裁判例が指摘している。
刑事事件判決としては、大阪高判昭和61年12月19日先物取引被害全国研究会編「商品先物取引詐欺刑事判決」、最判平成4年2月18日別冊ジュリスト平成4年重要判例解説、原審判決は別冊ジュリスト100号新証券・商品取引判例百選222頁参照が、民事事件裁判例としては、東京地判平成4年8月27日判時1460号101頁判タ812号233頁、神戸地裁姫路支部判平成14年2月25日最高裁ホームページ掲載等がそれである。
(4)向い玉規制と「外国為替証拠金取引」
「外国為替証拠金取引」は、取扱業者と顧客が差金決済契約の当事者となる相対取引であり、完全な「向い玉」(全量向い)と全く同じ完全な利害対立関係の下で取引が行われることになっている。このような構造的な利益相反状況の中で、取扱業者が、自己の利益を犠牲にして顧客の利益を図ることを期待することができないのは自明であり、取扱業者が利益を得ようとして顧客の利益を顧みない行為に出ることも当然の事理というべきである。利害関係が先鋭に対立する当事者の一方が一般消費者に対して助言をして高度の危険性を有する投機取引を勧誘することを、取引の仕組み自体として予定している「外国為替証拠金取引」は、正常な商行為であるとは到底言い難い。この点からしても、「外国為替証拠金取引」は、公序良俗に反して無効なものというほかはない。 |
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1 投機行為を私人間で任意に行うことについての社会的相当性の欠如
投資投機行為に関する上記各規定の趣旨には、その重点をいずれにおくかはともかくとして、全て委託者保護の観点が含まれていることは先に見たとおりである。そして、適法な金融商品については、いずれも、上記に挙げたほか、許可制、勧誘者の資格、法令による禁止行為の列挙、財産保全措置等が詳細に規定されている(商取法、証取法は、その全てが広義の「規制」であると見うる。)。しかし、「外国為替証拠金取引」には、上記のとおり金融商品販売法によって一定の説明義務等が課されるほかは、営業の開始、勧誘者の資格、禁止行為、顧客財産保全措置の全てについて、何らの規制もない。「外国為替証拠金取引」は、想定総取引量が証拠金の20倍以上に設定されるものが多く、全ての投機的取引のうち、最もリスクが高いとされる商品先物取引(商品先物取引の危険性の高さは公知の事実であろう。)におけるその比率(レバレッジ)がおよそ10倍から20倍程度であることと比較しても、そのリスクは極めて高い。現存する証拠金取引の中でも危険性の高い「外国為替証拠金取引」が、何らの規制もなくして適法に存在すると考えること自体、極めて非常識である。
2 取引条件等の決定における社会的許容性の欠如
上記のとおり、「外国為替証拠金取引」においては、「レート」(為替レート及びスワップポイント)について、一方当事者である取扱業者が決定するものとされているが、「外国為替証拠金取引」が、高いレバレッジをその仕組みとして取り入れていること(レバレッジを25倍に設定しているということは、「レート」が思惑とは逆に4パーセント変動するだけで投下資金の全てを失うことを意味する。)からして、著しく適切さを欠くというべきである。札幌地裁平成16年2月26日判決(同庁平成15年(ネ)第320号)も、「(相対取引であって、インターバンク市場に取り次ぐものではないから、取引明細は業者の)手によっていかようにも操作されうるものであった」としている。
また、「外国為替証拠金取引」においては、証拠金も顧客が取扱業者に対して一方的に差し入れるものとされている。しかし、適法に存在する先物取引が、清算機関(クリアリングハウス)を通じて、取引相手の信用リスク負担を負わないものとなっていることに比較し、「外国為替証拠金取引」においては何らの確実な顧客財産の保全措置も講じられていないことを考えると、異常であるとしか言いようがない。なお、札幌高裁平成16年2月26日判決(同庁平成15年(ネ)第273号)は、この種取引について、「(取引証拠金は)相対売買の当事者の一方である顧客からその他方のA社に対してのみ預託が義務付けられる合理的な根拠は認め難い」としている。
3 「スワップ合意」の社会的相当性、許容性
「外国為替証拠金取引」において、「取引」にかかる2通貨の金利差を指標として授受される「スワップ金利」は、利息等に関する現行の法体系とは相容れない。
「外国為替証拠金取引」における「スワップ金利」とは、上記のとおり、例えば10単位の「ドル売り」の場合に、円の「金利」が年利0.1パーセント、ドルの「金利」が年2.1パーセントである場合には、想定元本相当額のドルを「借りて」、同額の円を「保有」していると仮定され、「金利差」の2パーセント相当、すなわち、年換算にして、10単位×120円(1ドル120円の場合)×1万倍×2パーセント(24万円。この場合に要する「証拠金」は5万円×10単位〔50万円〕であるから、年利48パーセント。)を「スワップ金利」として支払わなければならない、というものである(「ドル買い」の場合は逆になる。)。
しかし、利息は元本利用の対価であって、元本の交付なくして利息が発生すると観念することなど出来ないし、そもそも、元金の交付なくして「利息」が発生するということは、金銭消費貸借契約の要物性とも重大な矛盾を生じる。また、「外国為替証拠金取引」において顧客が取扱業者に支払う「スワップ金利」は、出資法の刑罰金利率を大きく上回るものも多く、これを正当な経済取引であると見ることは、利息制限法、出資法による金利規制とも決定的な矛盾を生じさせる。
「スワップ金利」の授受は、上記のとおり、金利差を指標としてする差金決済合意に基づくものであるが、このような「スワップ」の授受を認めることは、「合意」のみに基づく「利息」の発生、その授受を認めることに他ならず、「金利」が「差金決済契約」に基づいて授受されるとしたところで、上記のような既存の法体系との矛盾が解消されないのは当然である。
「外国為替証拠金取引」における「スワップ合意」、及び、これを契約内容に含む「外国為替証拠金取引」は、公序良俗に反し、無効なものというべきである。
4 不可避的な違法勧誘・違法取引の誘発
上記のとおり、「外国為替証拠金取引」が、現在するもっとも危険性の高い「取引」でありながら何らの委託者保護の規制をも欠き、しかも、勧誘者と顧客が構造的な利害対立状況においてなされるものであるとすれば、この旨を説明された者が「外国為替証拠金取引」を行おうと考えることはおよそ考え難い。そうであるとすれば、必然的に、取扱業者の従業員は上記事柄について顧客に十分な説明をすることなく顧客を獲得するほかないということになる。違法勧誘が、「取引」の性格上必然的になされることになる。
また、取扱業者が顧客に対して「スワップ」を支払うためには、取扱業者に顧客との取引に係る「想定総取引量」に見合った「為替取引」すなわち、1000万円を証拠金とする「ドル買い」の場合には20万ドルの「外貨預金」の裏付けが存在することを要することになる(札幌地裁判決も同旨を言う。)が、このようなことは、取扱業者は言うに及ばず、いかなる大企業であってもなしうるものではなかろう。顧客から1億円の「預かり」を受けた場合に20億円相当の外貨を調達しなければならないとすれば、小規模企業に行いうるものでないことは明らかである。そうすると、結局、為替取引の裏付けを欠くまま商法の運営を続けていかざるを得ず、かかる観点からしても必然的に、取扱業者は顧客に損失を与えるべく、いわゆる「客殺し」の手法を用いることになる。
このように、違法勧誘・取引をするか、そうでなければ破綻必至である「外国為替証拠金取引」は、公序良俗に反し、無効というべきである。 |
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1 「外国為替証拠金取引」は、仮にそれが違法な差金決済取引として公序良俗に反するとまでは断じることができないとしても、これを行う一般消費者等にとっては、通貨(の購入)自体に意味があるのではなく、投機行為として行われるものであることは明らかであるところ、広く金融商品に関与する者は、その商品に見合った知識、情報、これらを的確に分析して自己の行動を判断する能力、十分な分析をなしうる時間、経験、財産等が必要である。当該金融商品に係るリスクに関する知識、情報、その分析能力、リスクを負担しうる財産等がない場合には、一般消費者に限らず、当該金融商品に関わる適格を欠く。このことは、一般投資家等に限られることではないが、リスクに関わることに慣れていない一般投資家等は、そもそも、自らが当該金融商品と関わりを持つに十分な知識、情報、それらの分析能力、リスクに見合った財産等を有しているのかさえ、自ら判断する知識、情報、判断能力、経験等を欠いていることが極めて多いことから、格別の配慮を要することになる。
ここから、当該金融商品について、豊富な知識、情報、経験を有し、一般投資家等に対して当該金融商品の「購入」を勧誘する者は、被勧誘者が、勧誘しようとしている金融商品の性質に照らして十分な知識、情報、判断・分析能力、経験、財産を有しているかについてできる限りの調査をし、自らの顧客、あるいは顧客としようとする者の取引適格の有無を把握し(顧客熟慮義務)、これが十分でない場合には、勧誘自体をしてはならないという、「適合性原則」(適格性原則)が導かれる。
2 適合性原則の遵守は、金融商品を勧誘する者が被勧誘者に対して負うべき、基本的な注意義務の一つであり、証券取引においても、証券取引法第43条1項、日本証券業協会投資勧誘規則第4条3号に規定され、金融商品に広く適用される金融商品販売法においても、その第7条、第8条に規定されており、投資、投機取引勧誘における基本的取引公序となっているし、証拠金取引であるという点で極めて近似する商品先物取引においても、適合性原則は、その違反について、商品取引所法第136条の25第1項4号が、委託者保護の観点に直接的に関係する事由としては唯一の主務大臣の監督権限発動事由として規定し(注:このような見方は適切でないかもしれない。)、日本商品先物取引協会受託業務に関する規則がその第3条において適合性原則を規定し、重ねて、その5条第1項第1号において適合性原則に反する勧誘、取引の受託等を「禁止行為」として明示するなど、基本的取引公序として位置付けられており、顧客熟知義務を尽くさず、取引適格を欠く者に対して取引を勧誘し、あるいは取引の受託を受けた場合には、投機取引勧誘者の不法行為を構成する。
3 さらに、「外国為替証拠金取引」においては、その取引適合性を判断するにあたって、取引の危険性、理解困難性等に加え、「取引自体が予定している利益相反状況」を考慮することが不可欠である。すなわち、証券取引や商品先物取引においてその取引適合性を判断する場合には、右取引をするに当たって、取引に関する十分な知識経験を持つ勧誘者が、顧客が取引益を得ればこれを市場から得て顧客に交付し、自らも手数料収入を得ることができるという意味で、顧客と共通の利益を有することが予定されているのが通常であることから、顧客の取引適格も、専門家たる勧誘者からの適切な説明、助言があってもなお取引をするに十分な適格を備えていないかという観点からされることが通常である(注:このような判断が適切であるか否かは措く。)。しかし、「外国為替証拠金取引」は、顧客と取扱業者の利害が真っ向から対立する相対取引であるから、勧誘者が顧客に対して、その利益になるように取引を受託することはそもそも期待できない。したがって、同取引における取引適合性は、専門家たる勧誘者と対等な相場判断が可能な者のみが備えるもの、少なくとも、専門家たる勧誘者からされる取引の勧誘の当否を自ら適切に評価することが可能な者のみが備えるものというべきである。 |
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1 投資投機取引勧誘者は、取引の勧誘にあたって、取引の仕組み、危険性等について、被勧誘者の理解力に応じた十分な説明を尽くす義務があり、これを怠った場合には、不法行為を構成する一根拠事実となる。
「外国為替証拠金取引」に近似する商品先物取引において、商品取引所法は、商品取引員に対して、委託契約締結前の書面交付を罰則を設けて義務付け(商品取引所法136条の19、159条)、同法施行規則は、その交付書面に記載すべき記載事項を挙げ(法施行規則47条)、受託業務に関する規則は、右書面の内容を説明することにより顧客の理解と認識を得なければならないとし(受託業務に関する規則4条1項2号、同2項)、取引の仕組み、その投機的本質、損失が発生する可能性等について上記事前交付書面及び準則(準則3条により事前交付書面とされている)に基づく説明をしないで勧誘、受託することを禁じている(同5条4号)。
上記のような「外国為替証拠金取引」の危険性、理解困難性その他の特性に照らせば、同取引を勧誘する者は、被勧誘者に対して、上記説明事項について、当該委託者の理解力等に応じて、被勧誘者が理解できるまで十分説明を尽くす義務があるというべきである。
2 そして、説明が、顧客の理解のためになされるものであり、当該顧客の理解を得られてこそ意味があるものであることからして、勧誘者の義務は、「告知」義務ではなく、「説明」義務である。また、上述のとおり、同取引の理解困難性に照らせば、同取引未経験者が一通りの説明を受けたのみで十分な理解ができるとは到底考えられないことから、勧誘者には、説明義務の一内容として、顧客に対して、交付書面等を熟読し、自らの理解を深め、取引を行うか否かの判断を冷静かつ自主的に行わせるために、顧客に対して熟慮の期間を与える義務を負うと解すべきである。
また、上記のとおり、説明義務が、顧客の理解のためになされるものであることからして、説明義務は、その履行の前提過程として一定の顧客調査義務と、その履行の過程として一定の顧客理解確認義務をも含んでいると解される。
3 「外国為替証拠金取引」に関し、裁判例において、その説明の欠如、説明の不十分さが違法要素の一つとして指摘されたものとしては、「取引自体の仕組み(相対取引であること、スワップ金利の意味、それが加減されることの影響、証拠金を追加しなければならない場合やその計算方法等を含む)」、「取引が賭博行為に過ぎないものであること」、「仲介先外国『マーチャントバンク』が当該外国の銀行法等に基づく銀行ではないこと」、「財産の分離保管が確実に図られているわけではないこと」等があるが、証券取引や商品先物取引等の投資投機取引における説明義務と大きく異なるのは、「相対取引であること」についての説明が不可欠である点である。一般投資家は、自らに「助言」してくれる勧誘者が、「自分が利益を得る場合には、必ず勧誘者が損失を被り、自分が損失を出せばそれが勧誘者の利益になる」という、先鋭な利害対立関係にあるなどとは想像だにしないのが通常である。取引開始後、個別取引を勧誘してくる者が自己とゼロサムの利害対立関係にあるか否かということは、被勧誘者が取引を開始するか否か、及び、個別取引の勧誘に当たって勧誘者がする「助言」をどのように評価するかに、重大な影響を及ぼす事由であることは明らかである。このことについての十分な具体的説明をすることは、取扱業者が説明義務を尽くしたというための不可欠の前提であるというべきである。 |
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1 両建とは、既存の建玉と反対のポジションの建玉を行うことをいう。両建は、商品先物取引において、売・買双方から証拠金を徴収されなかった時代において、迷ったときに様子を見るために用いたり、追証準備のための時間稼ぎのために用いられた手法であり、商品先物取引においても今日これを行う意味はない。両建てについては別の機会に議論の対象となると思われるので詳論しないが、両建は、委託者の、損失を出したくないという心理に漬け込んで、新たに証拠金の委託を受け、売買両方の建玉をさせることによって、委託者が自己の建玉状況を把握することをより困難にさせるものであり、商品先物取引被害事案においては、これが頻繁に見られ、被害を拡大させる大きな原因となっている場合が極めて多いが、外国為替証拠金取引においても両建が見られることは多い。
2 両建一般について言われる有害無益性に加え、外国為替証拠金取引においては、上述のとおり、スワップポイントは、同一通貨間においても、支払額が受取額より多額に(顧客の不利益に)設定されているため、「外国為替証拠金取引」において両建てをすれば、取引通貨の騰落如何にかかわらず、日々スワップポイントの差額を支払い続けなければならないのであり、両建の有害無益性は、より顕著であって、顧客の資金を自己に転化させようとする、極めて露骨な手法であるというほかはない。無職の女性が、数か月間、完全な両建状態に置かれて毎月21万円を支払わされていたという事例もあった。
3 外国為替証拠金取引における両建については、裁判例においても、「ドル買いとドル売りを同時に保有するという無意味、かつ、買いと売りのスワップ金利の差異が口座から差し引かれていくという意味で有害な取引」(札幌地判平成15年5月9日)であると判示されており、私の知る限り、外国為替証拠金取引において、両建に何らかの合理性を見る裁判例は皆無である。 |
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1 詐欺的商法に共通する、断定的判断の提供、新規委託者保護育成義務違反(注:「委託」という言葉は適切でないが。)、過当売買、頻繁売買、無断売買、一任売買、仕切り拒否・回避がほとんど全ての事案で競合して行われている。
2 また、商品取引被害においても、「他人の利益を付ける」等という例があるが、外国為替証拠金取引においては、取引所を通さない不明朗な取引であるため、「他人の利益を付ける」とか、「既に利益が出ているモノを分けてあげる」等という勧誘事例が多いように感じる。最初の勧誘時よりも1か月も前に建玉をしたかのような報告書が現存している事例もあった。 |
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1 基本的には、他の詐欺的商法に対する処理と同様である。商品先物取引被害事案等とその手法を共通にする。
2 ただし、商品取引員よりも、「何でもあり」の世界である。取扱業者は、その多くが経済的に極めて脆弱でもある。計画的な倒産を繰り返していると思われる業者(その人的構成から、事件屋提携弁護士と関係を有する事件屋が運営していると思われるもの)もあるし、暴力団との関係がうかがわれる業者もある。証拠保全手続や債権仮差押手続は、より多用されてよいと思う。証拠保全の検証対象とすべきは通常の商品先物取引被害事案と同様であるが、インターバンクに「繋いでいる」こと(もしくは「繋いでいない」こと)を証する文書等を加えるべきである。債権仮差押命令の申立は、取扱業者の利用口座を調査して、網羅的に行わなければ奏功しないのではないかと感じる。被害者が取扱業者の銀行口座を知っている場合でも、そのような口座は出入りが激しいのが通常ではないか。現に、執行が奏功しない例は多い。
3 交渉、訴訟においては、過失相殺の適用(ないしこれと同様の効果を生じる考え方)を前提とすることは、絶対に避けるべきである(紛争の早期解決等の要請を一切排斥すべきとの趣旨ではない)。外国為替証拠金取引こそ、投機取引被害における過失相殺規定の適用の不合理を浮き彫りにさせる。「相対取引であるから過失相殺はおかしい。過失相殺をすることは、盗品を保持している窃盗犯人に対して、被害者にも鍵をかけ忘れた過失があるとして盗品の半分を賠償すればよいと言うに等しい。」という理屈は、素直な法感情に合致するのではないか。外国為替証拠金取引被害事案で過失相殺をしない運用が定着すれば、同じように構造的利害対立構造が作出されている商品先物取引被害事案においても、運用の改善が早まるのではないかと(楽観にすぎることは認めるが)思う。 |
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